スズの治療がひと段落すると、旋律は妊婦を抱えて部屋を出ようと動き出す。
"治療しますよ!"というスズの申し出にフッと笑みを見せる彼は、静かに首を横に振った。
「俺のはいい。ありがとな」
「あ、いえ…!」
「この妊婦の借りは返した。俺は行く」
「これからどうすんだ?」
「とりあえずコイツを病院に連れていく。その後戻ってきてもいいけど、病院までも遠いからな。
爆破までに戻れるかわからねぇ。それに…部下の命を雑に扱う上司のために、命かける気になれねぇな…」
「旋律さん…」
「あっそ」
自分から聞いた割に、そんな素っ気ない返事をする皇后崎。
そんな彼に、旋律は改めて声をかけた。
第58話 華厳の滝跡地研究所G
「…俺は借りは返すって言ったよな?」
「は?」
「お前との勝負の借りも必ず返す。次会ったら俺がお前をぶっ殺してやるから覚えとけよ」
「次も返り討ちにしてやるよ」
「舐めたガキだ…」
「…迅、もう一つ言おうとしてることあるでしょ?」
中指を立てて相手を挑発している同期の肩をつつきながら、スズは笑顔を見せる。
イスに座ったまま足を組んでいた皇后崎は、彼女をチラッと見上げてから照れ臭そうに言葉を紡いだ。
「おい」
「あ?」
「ありがとう」
視線は前に向けたままの皇后崎に代わり、少しこちらを振り返った旋律にスズが笑顔で頭を下げる。
言葉を返さず無言で出て行った彼が何を思っていたか、2人は知る由もない。
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医務室を出てすぐ、抱えていた妊婦が目を覚ました。
鬼に助けられたことを恥だと言う彼女に、旋律は静かに話し始める。
「なんだそれ?お前馬鹿か?命の恩人に鬼も桃もねぇだろ」
「…」
「お前のその頭の傷治した奴は、相手が鬼とか桃とか関係なく動いてたぞ。俺の傷まで治そうとしたぐらいだからな」
「あの、その鬼っていうのはもしかして…例の生け捕り対象の…?」
「ん?そうだけど」
「捕まえなくて良かったんですか?」
「もうそれは取り下げられたろ。まぁ仮に命令があっても、あいつと直接関わったら…そんな考えどっかいくわ」
「そう、ですか…」
「(桜介のことがなければ、俺も好きになってた…かもしんねぇな)
けどまぁ俺もああゆう鬼どもは嫌いだよ…殺りにくくてしょーがねぇ…」
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