旋律と会話をしているスズを、鳥飼のベッド横にあるイスに座りながら眺めていた皇后崎。
相手が何か妙な動きをしたらいつでも割って入れるように身構えていたのだが…
想定とは違う理由で、皇后崎は彼女の元へ駆け寄った。
「スズ、お前ケガしてねぇか?」
「ん?あーうん…でもまぁ平気だよ!」
「平気じゃねぇよ!見せろ!」
会話の途中でスズが見せた、左の脇腹を気にする仕草。
最初は走って来たからだと思っていた呼吸の乱れが、未だに続いていること。
よく見れば、額や首元に汗が滲んでいること。
慌てて問いただせば、やはり想い人はケガを負っていた。
「撃たれたのか?」
「途中で見つかっちゃって…でもかすっただけだから!大したことないの!」
「そういう問題じゃねぇ!俺は…スズが痛い思いすんの嫌なんだよ…」
「迅…」
「木下スズ!」
「は、はい!」
「そこ座れ」
「へ?」
「噂で聞いただけだけど、お前自分のことは治せないんだろ?俺が診てやる」
突然の申し出に、スズと皇后崎は顔を見合わせる。
今までの言動から悪い人ではないと思いつつも、スズは恐る恐る指定されたイスへと向かった。
座って一息つけば、今までアドレナリンのお陰で抑えられていた痛みや熱感が一気に襲って来る。
「確かにかすっただけで、弾は入ってなさそうだけど…血が止まんねぇな」
「思いっきり体動かしちゃったからだと思います…」
「(この状態で走って来て、すぐにケガ人の状態を診れるもんなのか?少しも痛そうにしてなかったぞ…?)」
「他の人よりは遅いですけど、放っておけば鬼の血の力で治ってくるので大丈夫です!」
「そうか。じゃあとりあえず止血だけしとく。…傷口触るぞ?痛くて我慢できなそうなら、俺の腕とか肩とか掴んでろ」
「はい…!」
スズの前にしゃがんでいた旋律は、そう言って彼女の脇腹にガーゼを当てると強く圧迫した。
"痛っ…!"と小さく声を漏らし、痛みに耐えるように両手を握り締めるスズ。
血が止まったのを確認した旋律が最後にキレイなガーゼを貼ると、彼女はようやくふーっと大きく息を吐いた。
痛みが取れたわけではないし、我慢したせいで体力も奪われただろうに、スズはまたしても旋律に笑顔を見せる。
真っ直ぐなお礼の言葉を言われれば、彼の手は自然と少女の頭を撫でていた。
「痛かっただろ。よく頑張ったな」
「あ、いや、そんな…!」
「(救護担当の人間は俺たちほど痛みに慣れてない。ましてや女だ…撃たれた時点で心が折れてもおかしくない)」
「?」
「(なのにこいつはそこから全力で走って、鬼も桃も関係なく目の前の奴を治して、聞かれるまでケガのことを口にすらしなかった)…強ぇんだな、お前」
「全然です!私、治療しかできないですから!」
「そうじゃなくて、心が…ってこと」
「そっちか…!すみません!」
「(ふっ。確かに一緒にいて飽きねぇのはその通りかも。あいつが惚れんのも分かる気するわ)…これでお前との貸し借りもなしだからな」
「押忍!」
「……桃尾旋律」
「ん?」
「俺の名前。ちゃんと覚えとけよ…スズ」
「は、はい!旋律、さん…」
忘れないように口の中で自分の名前を唱えているスズを、旋律は楽しそうに見つめるのだった。
to be continued...
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