決意を固めたはいいものの、誰を頼れば良いものか悩むスズ。
しばし引き戸の方を向いて考え込んでいると、不意に背後に人の気配を感じた。
振り向く間もなく腰に回された手は、絶妙な力加減でスズのことを抱き締めている。
同時に聞こえてきた声は、いつもよりさらに柔らかいものだった。
膝に乗って向かい合わないと出られない部屋 -朽森編-
「スズ〜何してんの?」
「紫苑先輩…!」
「早くこっちおいでよ」
「は、はい!今行きま「ん?これ何?」
先輩の色気にやられワタワタするスズの手から、パッと紙を奪い取った朽森。
慌てる後輩の動きを制止しながら内容に目を通すと、彼の表情は途端に明るくなる。
そのまま引き戸に手をかけて本当に開かないことを確認してから、朽森は腕の中にいる女子の顔を覗き込んだ。
「スズ」
「はい…!」
「これ俺としよ?」
聞こえてきた言葉に、スズは一瞬思考が止まる。
というのも、絶対に普通には終わらないと思い、協力相手として朽森は最初に候補から外していたのだ。
それをどう伝えればいいかと再び頭をフル回転させているスズに構わず、悪い先輩はさらに積極性を増してくる。
「…俺とじゃやだ?」
「あ、いえ!嫌とかじゃなくて…その…」
「ん?」
「…普通には、終わらなそうだから…ドキドキし過ぎちゃうなと思って…」
「! そっか〜…"普通じゃ終わらなそう"ってさ、どういうの想像してんの?」
「えっ!」
「聞きたいな〜スズが想像してる、俺との普通じゃないやり取り」
完全に言葉のチョイスを誤ったと思ったが後の祭り…
色気ダダ漏れの朽森にいつの間にか壁ドン状態へ追い込まれてしまい、逃げ場はなかった。
と、そこへ聞こえる聖母と常識人からの救いの声。
「おい、紫苑!いつまでスズに絡んでんだ!?」
「早くこっち来て座らせてあげなよ〜?」
「はいはい〜」
口ではそう言いながらも、朽森は一向に場へ戻る気配はなく…
室内を区切るために置いてある衝立をさり気なく移動させて視界を遮ると、和室のもう半分の方へスズを連れて行った。
「あ、あの、紫苑先輩…!」
「しーっ。他の奴らに聞こえちゃうから」
「は、はい…!」
「じゃあその座布団の上座って?」
「へ?」
「スズさ、上に乗るの緊張するでしょ?だから俺が上に乗ってあげる」
朽森からの思わぬ提案に驚きながらも、今までにない展開にスズは希望を見出す。
自ら乗らなくていい分、確かに恥ずかしさは軽減されそうである。
お礼を伝えながら、言われた通り座布団の上に足を伸ばした状態で座るスズ。
妖しい笑みを見せる先輩の思惑には気づかず、彼女が大人しく待っていると、朽森はその足の上に跨り少しだけ体重をかけた。
「重くない?」
「全然です!これでミッションクリアですね!ありがとうございます!」
「まだ安心するのは早いかな〜」
「?」
「この体勢って意外と危ないの気づいてないでしょ」
ポカンとするスズに微笑みかけながら、朽森は軽く彼女の肩を押す。
そして後ろに倒れるスズの頭をすぐさま支え、優しく畳の上に下ろすと、そのままその手を顔の横についた。
さっきまでの平和な状態が嘘のように、今スズは1人のイケメンによって押し倒されてしまっていた。
「うわっ、えっ、あれ?」
「ん〜いい眺め。どう?スズが想像してた普通じゃないやり取りに近づいた?」
「なっ…!」
「ふっ。続きは俺の部屋でしよっか」
「紫苑!お前、スズに何してんだコラ!」
副隊長が止めに入るのがあと少し遅かったら、真っ赤な顔の可愛い後輩は何をされていたやら…
同期全員に怒られている朽森を見つめながら、やっぱり普通じゃな終わらなかったと苦笑するスズなのだった。
fin.
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