迷った末、一番強い酒が置いてある席の人物に頼むことにしたスズ。

隣との仕切りに使う衝立の影から静かに声をかければ、並木度は首を傾げながら笑顔でこちらへ来てくれる。

そして例の紙を見せながら事情を説明すると、いつもの穏やかな雰囲気で快諾してくれるのだった。





膝に乗って向かい合わないと出られない部屋 -並木度編-





「すみません。せっかく楽しく飲んでらしたのに…」

「全然!むしろ頼ってくれて嬉しいよ」

「馨さん…!ありがとうございます!」

「いえいえ。何か慣れてる感じするけど、初めてじゃないの?」

「あ、はい…何度か同じようなことに巻き込まれたことがあって…」

「ふふっ、そっか。大変だったね。じゃあいろいろ指示出してもらおうかな」

「指示なんてそんな!」


楽しげにそんな会話をしつつ、2人は準備を進めて行く。

壁を背にして、少し寄りかかりながら足を伸ばして座る並木度。

いつでもどうぞ?と言わんばかりにポンポンと太ももを叩き、優しい笑顔でスズを見上げた。

"失礼します"と声をかけながら、スズはゆっくりと太もも辺りに跨って腰を下ろす。

初めて触れた並木度の体は、思っていたよりもずっと逞しい感じがした。

偵察部隊故、戦いがメインではないのだが、それでもやはりつくとこにしっかり筋肉がついている。

穏やかな表情や性格とのギャップに、スズの心拍数は一気に上昇した。


「スズちゃん?大丈夫?」

「(ヤバイ…!何か意識し出したら馨さんの顔見れなくなった…!)

 はい!あ、ありがとうございました!これでクリアできたと思います…!」


自分のテンパり具合を悟られないよう、慌てて立ち上がろうとするスズだったが、突然腰に回された腕によってそれはあっけなく阻止された。

驚きながら目線を向ければ、色っぽい表情で自分を見つめている副隊長がいる。


「か、馨さん…?」

「どこ行くの?」

「ど、どこって…あの、皆さんのとこに戻らないと…」

「まだダメ」

「へ?」

「戻ったら邪魔されちゃうでしょ?…もう少しスズちゃんと2人でいたい」

「!」

「こんな距離になるの初めてだからさ、すごくドキドキしてるんだけど…でもそれが心地良いんだよね」

「わ、私は…さっきから心臓が痛くて、馨さんの顔、見れないです…!」

「あ、だから目合わないのか。何かそうやって意識してもらうの嬉しいかも。……もうちょっとだけ抱き寄せてもいい?」

「! は、はい…!」


お礼を伝えながら、スズの体に回した腕に力を込める並木度。

必然的に抱き合う形になった2人は、しばらく互いの鼓動を感じながら時を過ごす。

衝立の向こうが気にならないほど、スズと並木度は今自分たちの世界に入っていた。

だがついにスズの心臓が限界を迎える。


「馨さん…もう、心臓がもたないです…!」

「あ、ごめんごめん!つい甘えたくなっちゃた」

「いえ、す、すみません。私の器が小さいばっかりに…!」

「……スズちゃん、可愛いね」

「えっ!」

「そんなに分かりやすく反応されたら、男はやめられなくなっちゃうよ?…もっと触れたくなる」


そう言いながら、自然な流れで目の前の女子の頬へ手を伸ばす。

並木度の優しい触れ方にドキドキし過ぎて、スズは咄嗟にギュッと目をつぶった。

後輩のそんな姿に笑みを零すと、並木度は彼女の頭を優しく撫でた。


「これ以上やったら紫苑みたいになっちゃうから、この辺でやめとこうかな」

「そ、そうしていただけると、助かります…!」

「ふふっ。じゃあ続きはまた今度ってことで」

「…えっ」


いつもの穏やかな笑顔の裏に、スズは何か妖しいものを感じる。

もしかしたら一番気をつけなきゃいけないのは彼なのかもしれない…そう頭に刻み込みながら夜は更けていくのだった。



fin.



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