鬼の少年が動かなくなり、部屋の中は恐ろしい程の静寂に包まれた。

その中で無陀野の落ち着いた声だけが聞こえてくる。


「やはりただの馬鹿…か…暴走状態になるなんて」

「無人先生…!」


生死の境をさまよった結果、少年は数時間前と同じように暴走状態に入ってしまった。

至近距離で血の銃を向けられた無陀野を心配してスズは声をかける。

このまま銃を撃たれれば、自分の後方にいる彼女にも被害がいく。

無陀野は目にも止まらぬ速さで移動すると、スズを片手で抱き寄せ、自身の血を解放した。


「大丈夫か?」

「は、はい!ありがとうございます。先生は…?」

「平気に決まってるだろ。それよりスズ、減点100だ」

「100!?もう点数なくなっちゃいますよ…」


血の傘で攻撃を防いだ無陀野は、自分の腕の中にいるスズへそう告げた。

ガッカリした表情を隠さない彼女の頭をポンポンと軽く叩いてから、無陀野は暴走している少年に目をやる。


「俺が守るから問題ないが、念のため端の方にいろよ」

「了解です!」

「"鬼の血"の使い方も知らないんだな。せっかくだから見せてやるよ…正しい"鬼の血"の使い方を。

 まぁ暴走状態じゃ何も覚えてないだろうがな。油断してる奴なら、致命傷を与えられてたかもな。けど…」

「うわっ…!!」

「俺は油断しない」


スズが衝撃に驚き目を瞑った一瞬のうちに、暴走状態の少年は無陀野に押さえ込まれていた。

さっきまでキレイだった室内もあちこちが破壊され、血の海と化している。

正気に戻った少年は、自身の腕の変化と記憶の欠如に驚き戸惑っていた。


「(なんだ…?何が…また気ぃ失ってたのか…?)腕が…!またかよ…!」

「記憶がゴッソリ無いだろ。鬼の血は強大故にコントロールが難しい。暴走状態になると自我と記憶を失う」

「血!?暴走!?わかんねぇこと言うな!つーかそれ!お前も変なの出てんじゃねーか!」

「無知が刃物を持つのは恐ろしいな。これは"暴走"とは違う、操ってるんだ"鬼の血"を。まぁ説明する必要はない。お前は不合格だ」

「(ですよね…あー何とか巻き返せないかな…)」


何とか挽回のチャンスがないかとスズが唸っている間に、少年もまた何かを考えていたようで…

怒りなのか恥ずかしさなのかは分からないが、体をプルプルと震わせながら土下座をした。


「アンタ、マジでムカつくけど…強いわ…恥を忍んで言うぜ…」

「(! 何だ、何かいい案浮かんだのかな!)」

「舎弟にしてくれ…」

「(舎弟て…!先生が組長にでも見えてるのかな)」

「俺も強くなりてぇんだ…!親父の仇、討つために…!」

「断る。戦闘において、頭を使わないことは死に直結する。なのにお前はあっさり暴走した。

 血も使えなきゃ、頭も使えない。言ったろ?"使えない"奴はいらないと」

「(ム・カ・つ・く…!)」

「手短に処分する。暴走する奴を野放しに出来ない」


そう言いながら、人差し指につけている指輪から小さい刃を出す無陀野。

これだ!と直感したスズは、少年のヒントになればと思い声をかけた。


「少年、顔上げて…!前見て!」

「(! 天使の声…!)前…?」


スズの声で顔を上げた少年は、無陀野が血の傘を作り出す一部始終を目撃した。

無陀野の指からじゅわっと出た血液は、瞬く間に傘の形に変わっていく。

"これでどういう原理なのかは理解できたはず…!"と、スズは祈るように少年を見つめる。


スズが見守る中、少年は突如右手を引きずりながら走り出した。

それから血が流れる右手を支え、何かをブツブツ呟きながら、無陀野に向かって行く。

そして…!

大きくジャンプして上から攻撃を仕掛けた少年の右手には、荒削りだが確かに銃と言えるものが生み出されていた。



to be continued...



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