覚醒した鬼の少年は、そのまま学園内にある大きなホールのような場所へ運ばれた。

未だ意識が戻らない少年をイスに座らせると、スズは彼の口・胴体・手足をベルトで拘束した。


「こんなに拘束しないとダメですか?あまり乱暴な印象じゃなかったですけど…」

「あの現場を見ただろ。こいつの性格に関係なく、一度暴走すればあれだけの被害が出る…油断大敵だ」

「そうでしたね……よしっ、こんな感じでいいですか?」

「あぁ」


スズの問いかけに対し、仕込み傘で倒立をしながら腕立て伏せをしている無陀野は穏やかに返事をした。





第2話 桃太郎機関





しゃがんだまま、座っている少年を見上げていたスズは、隣で筋トレを続けている無陀野へ静かに声をかける。

無陀野と言えば、鬼の世界では一目置かれ、中には緊張でまともに会話できない隊員もいるぐらいの存在だ。

その彼に何の気兼ねもなく話しかけることができるのは、長年の付き合いであるスズ故にだろう。


「無人先生〜」

「ん?」

「…彼、合格できそうですか?」

「やってみなければ分からないが、見込みは薄いかもな」

「そっかぁ…」

「合格して欲しいのか?」

「んー…そうだったら嬉しいな、って。同期や知り合いは多い方がいいんでしょ?」

「…そうだな」


こちらに笑顔を向けるスズに、無陀野もまた少し表情を緩めるのだった。

そうして少年が目覚めるのを待つこと1時間…

ようやく今回の主役が意識を取り戻した。


「(! なんだ…?ここは…)」

「無理やり起こすことはしなかった。意識朦朧で説明しても…1297、頭に入らないからな…1298、

 二度手間はご免だ…1299、俺は効率が悪いことが嫌いなんだよ…1300」

「んー!んー!」

「俺は無陀野無人。お前と同じ鬼だ。そして隣にいるのが…」

「木下スズです。初めまして!」

「(俺の天使…!!)」

「こいつも鬼だ。ここがどこかは言わない。父親の遺体は別の所で保管してる。お前を連れてきた目的は、"審査"と"収集"のためだ」


そこまで言うと無陀野は突然ローラースケートで走り出し、部屋の端に置いていたホワイトボードを持ってくる。

これから基本的な部分の説明をするのだろうと思ったスズは、彼から仕込み傘を預かった。


「傘、預かります」

「あぁ、頼む。お前も知ってると思うが、鬼を排除する桃太郎機関…通称"桃関"。

 それに対抗するための鬼の機関…"鬼関"があり、そこで戦える人材を集めている。

 お前みたいに覚醒した鬼を見つけて、相応しい人材かを審査するために来た。以上。スズ」

「はい!…ベルト外すね」

「(! 天使…!)」

「じゃあ質問を受け付けよう」


無陀野に名前を呼ばれたスズが、少年の口につけていたベルトを外す。

そして自由に言葉を発せるようになった状態で、無陀野は彼に発言権を与えた。

スズから仕込み傘を受け取りながら、そんな少年の第一声を待つ。


「テメェいきなり何しやがる!ほどけコレ!親父どこにやった!何かしたらぶっ殺すぞ!」

「減点1…スズ、記録しといてくれ」

「あ、はい…!」

「保管してると言ったろ?損傷させるなら保管とは言わない。話を理解する脳がないのか?この質問で俺の人生の35秒を無駄にした」

「知るか馬鹿が!信用できるかよ!」

「大体、今親父の話は関係ないだろ。話が進まない奴だな。他に質問がないなら審査は続行だが?」

「うっせー!まずコレ外せ!」

「減点2…暴れるから拘束してるんだ」

「(あーまた減点された…)」

「人に点数つけんな!ムカつくんだよ!」

「健忘症か?審査すると言ったろ?」


動と静。

一向に嚙み合わない会話を聞きながら、スズの頭にはそんな言葉が浮かんでいた。

同期を増やすためにも、少年には何とか合格して欲しいと思うのだが、さっきから減点の嵐…

プルプルと体を震わせたかと思えば、いきなり深呼吸をしたりと、落ち着かない様子の少年を見つめるスズからは、1つ大きなため息が漏れた。


「いやー審査?知らねーっすわ。んなヒマもねぇし。とりあえずこれ外そうぜ?親父の仇討ちに行くからよぉ…割り込むなよ…カス。な…?」

「気色悪い顔で見るなよ」

「あぁ!?」

「なるほど、ただの死にたがりか。死にたがりにピッタリの"やり方"がある。前から通常の審査は効率が悪いと思ってたんだよ」

「また傘預かりましょうか?」

「悪いな。…スズ」

「はい」

「もし見るのがしんどかったら、目を閉じてろ。」

「? 分かりました」


ネクタイを外しながらスズに傘を手渡すと、無陀野は彼女の耳元で静かにそう言った。

言われていることの意味がイマイチ分からず、ぼんやりと返事をするスズをその場に残し、無陀野は再び少年に向き合う。


「お前…ネクタイ似合わなそうだな」

「何言って…」


少年が言い終わる前に、無陀野は自身のネクタイを彼の首に引っ掛け、イスごと全力で後ろへ引っ張った。

手足を拘束されているため、少年は何の抵抗もできず首を絞められている状態だ。

スズが思わず息を吞む中、無陀野は今までと変わらず冷静に言葉を発する。


「要は使える奴か否かだもんな」

「ぐっ、がっ…げっ…」

「生物の本質は死に際に出る。その小さな脳を使って、この状況を打開しろ。出来なきゃ死ね」


少年はしばらく足をバタバタさせていたが、だんだんとその動きが鈍くなり、目や鼻、そして口からも血を流し始めた。

そしてついに彼から一切の動きがなくなった。



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