日ノ国 ー都ー

帝の秘宝である"神器"が保管されている建物に、怪しく蠢く妖達の姿があった。

時を同じくして、都のあちこちで火の手が上がる。

辺りを見渡せば、そこかしこに凶悪な妖が出現し、手当たり次第に人間を襲っていた。

本来であれば、都の周辺には結界が張られ守られているはずなのに…


そんな中で数体の妖が大きな箱を抱えて上空へと消えていく。

見覚えのあるその箱には、大切な"神器"が収められていた。

慌てた様子で報告をしてきた宮人みやびとに対し、天下最高君主である帝は落ち着いた声音で指示を出す。


「…神器は全て持ち出されたのだな」

「はい。十の神器全て…持ち去られてしまいました。盗んだ妖共も…見失ったようです…申し訳ありませぬ!すぐ手分けして捜索に…!」

「全ての陰陽師を集めよ。神器を取り戻せ」

「全てとは…まさか…」

「決まっている。あの"黒城"に住む"異端の者"もだ。あれより出鱈目な力を持つ者はおらぬ。事は一刻を争うのだ」

「は…はっ!!」


有無を言わさない帝の言葉に、宮人はバタバタと部屋を後にした。

1人になった最高君主は、夜の帳がおりた都を見つめる。

その視線の先には、世にも珍しい漆黒の城が建っていた。


「…頼んだぞ、文月」


"異端の者"と位置づけられている人物の名をポツリと呟いた帝。

そしてさらに声量を落とし、穏やかな声である人物の名を発した。


「スズ…文月を頼む」





第1話 異端の者 ー前ー





魑魅魍魎が溢れる混沌の世。

妖が跳梁跋扈し、そこらに厄災が散らばっていた時代。

それら災いを祓い、帝に忠義を誓う彼らを…人は"陰陽師"と呼んだ。

この物語はそんな陰陽師のお話、ではなく…

陰陽師でありながら、他とは違う風変わりな力を持った女性が主人公である。

彼女は周りから"黒城の風優方士ふうゆうほうし"と呼ばれていた。


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"ちょっと行ってきまーす!"

そう言って黒城から出てきた1人の女性、名を木下スズという。

買い物がてらフラフラと散歩をするのが好きで、この日も愛用の巾着片手に城を出発したのだった。

天気の良さも手伝って、いつもより少し遠くまで足をのばしたスズ。

ご機嫌で歩を進めていると、不意に誰かの怒鳴る声を耳にする。

その怒声に反論している者の声が幼いように思え、心配になったスズは速足で声のする方へと向かった。


「こ、ここはおいらと母ちゃんの家だっ」

「おめェの母親は1年前に死んじまってるだろォが!!」

「妖は不幸しか招かねェ!とっととここから出ていけ!!」

「…おいらは、人間に悪さなんてしない…っ」

「ほお…どうやら…」

「口で言ってもわかんねェみてえだな」

「ぎゃっ」

「これに懲りたらここから出ていけよ!」

「妖は妖の群れの中で暮らしやがれ!」

「ちょっと、あなた達!!」

「「あ?」」

「こんなに小さい子に手あげるなんて最低ですよ!」


スズが駆けつけた時には、既に事が済んでしまっていて…

幼き妖は村人によって痛めつけられ、その場に倒れ込んでいた。

"大丈夫!?"と妖を助け起こしながら、スズは2人の村人を睨みつける。


「うるせェな!おめェに関係ねェだろうが!」

「女だから手出されないと思ってたら痛い目見るぞ?」

「別にそんな風には思ってません。弱い立場の相手にしか強く出れないからって、そうやって意気がるのやめてください」

「「んだと!?」」


瞬間的に頭に血がのぼった村人コンビは、妖にしたのと同じようにスズへと向かっていく。

が、サッとそれをかわしたスズは、合気道の要領で2人の手首を捻り上げる。

予想外の反撃に勢いを削がれた村人達は、懲りずに悪態をつきながら走り去って行った。

その後ろ姿を睨みつけていたスズだったが、彼らが視界から消えた途端、その場にペタンと座り込んでしまう。


「おい!大丈夫か!?」

「うん、平気。あー…ドキドキした」

「え?」

「私ね、あんまり今みたいなこと得意じゃないの」

「そうなのか?でも強かったぞ?」

「一応護身術的なものは教えてもらってるんだけど…ほら」

「? …あ、手震えてる」

「やっぱり実際にやるとなると緊張しちゃって…」

「ごめんな。おいらのために…」

「ううん!こちらこそごめんね。もっと早く来てればケガしなくて済んだのに」

「こんなの全然痛くねェ!……ありがとう。おいらのために戦ってくれる人間…初めてだ」

「そっか…私、木下スズ。あなたのお名前は?」

「嵐丸!」

「じゃあ…嵐丸、私とお友達になってくれませんか?」

「!」

「…人間の友達は嫌、かな?」

「嫌じゃない!おいらが友達でいいのか…?」

「もちろん!こんなに可愛い子と友達になれて夢みたい!よろしくね」


スズの優しい笑顔と温かい雰囲気に、嵐丸は少しだけ母の面影を見る。

思わず目の前にある着物をキュッと掴むと、気づいたスズが嵐丸の頭を優しく撫でた。

久しぶりのその感触に嬉しくなった彼は、元気な笑顔を見せるのだった。



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