それからというもの、私は何度もハナダのどうくつを訪れた。
ワタルくんとのバトルの勝敗を確認していたのは最初の数回ほどで、今ではお菓子を食べに行っているようなもの。ミュウツーも当たり前のように私を受け入れてくれているだけではなく、どうくつに入った瞬間にテレポートで彼の元へ飛ばしてくれるようになった。(ミュウツーいわく「何度も濡らされるのはいやだ」とのこと)

今日のお菓子はアローラ物産展で買ったマラサダだ。おすすめとされていたミツハニーの蜜がたっぷり使われたものを買ってみた。

「美味しいけど……かなりお腹にたまるなぁ」
 
彼と半分こにしたというのに、胃にずっしりとある存在感。しかし、ミュウツーはぺろりと平らげ、他に無いのかと催促をしてくる始末。甘いものが好きなのだろうか。口には出さず「かわいいところもあるんだよなぁ」と頬を緩ませながら、もう一つのマラサダを渡した。
それもあっという間に食べ終えた彼は、思い出したかのように言う。

『しばらく来ない方がいい』
「え? どうして?」

面倒くさそうにしていたことはあっても「来るな」とは今まで一言も言わなかったのに。なんだかんだ、こうしてお菓子を食べて楽しんでいたのは私だけだったのだろうか。
しゅんと肩を落としていると『早とちりをするな』と鋭い音が飛んでくる。

『理由は二つある』

一つ、きっともうすぐ自分は敗北する。そのときに、私がいてはいろいろとまずいだろう。
二つ、最近この辺りを怪しげな奴らがうろついているから危険である。

「怪しげな奴ら……?」
 
そう言われて真っ先に思い浮かぶのはロケット団だ。しかし、彼らはもう解散したと聞く。確か少年一人がボスであるサカキに引導を渡したのではなかっただろうか。

『あのテの輩はそう簡単に改心はできない。散らばっただけ厄介だ』
 
きっぱりと言い切られてしまうと、こちらはぐうの音も出なくなる。加えて、私には残念ながら対抗する術がないポケモンを持っていない。彼らに出会ったら身を守れないのだ。 だから落ち着くまで一人で出歩くな、とミュウツーは言いたいわけで。

「優しいね、ミュウツー」
『余計な面倒を増やしたくないだけだ』
 
そっぽを向く彼に「そっか」とだけ答える。でもやっぱりミュウツーは優しいと思う。こうして一緒にお菓子を食べてくれること、ワタルくんのためにバトルをしていること(自分のチカラを高めるためにワタルくんを利用している、と彼は言っているが)、考えればいくらでもその優しさは思いつく。
私たち『人間』が『彼』にしたことは許されることではないけれど、少しずつ歩み寄っていければいいな、なんて――

「って、負けそう!? ちょ、ちょっと!?」
『うるさい。あの男が強いことはお前も知っているだろう』
「それはもちろん! ええ、どうしよう、まだなにも考えていなのに……」
 
ワタルくんの行動が全て知っていることについて、まだ彼には言っていない。できれば格好良く、探偵のように「お見通しよ!」と証拠を叩きつけていきたいのだが。

『お前には無理だな』
「ひ、ひどい」
『ともかく、ほとぼりが冷めるまでは来るな』
「……でも待って、あなたは大丈夫なの?」
 
仮にロケット団の残党が近くにいるというのなら、ミュウツーこそ危険なのでは。ロケット団はポケモンの生態研究をしていたことでも有名だ。もしもミュウツーを造ったことに、組織も絡んでいたら……?
 
いやな予感が背筋を走る。確かに彼は私よりも自分を守る術を持っている。そういうチカラの使い方もわかっている。けれどそれを上回る『何か』をロケット団が持っていたら? ミュウツー捕獲を前提に動いているのなら、無力化する方法なんていくらでも用意しているんじゃないだろうか。
守りたい、ミュウツーを。大切な友人を、私は守りたい。
同時に浮かぶのはやっぱりあの人の顔だった。事情を話せば、きっと彼を守ってくる。

「ねえ、ワタルくんに――」
『勘違いをするな』
 
息が止まる。何も言うことは許されないプレッシャーに襲われた。

『私は人間を、お前たちを許したわけではない』


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