彼が去ってしばらくしてから、リーグから大勢の人がハナダのどうくつへやってきた。その中にはカスミさんもいて、一目散にこちらへ駆けてくる。手頃な岩に腰掛け休んでいた私を見て、悲鳴をあげた。
「すごい怪我じゃない!」
実際、鏡で確認したわけじゃないので、怪我の具合はわからない。とにかく背中が痛いのと、頬がひりひりと熱いのを感じるだけだ。身体は動くし、意識もはっきりしている。視界だって良好。
「あなたねぇ。端からみるとすごい怪我よ?」
「その通りだ」
呆れたカスミさんに同意する声。先ほどまでリーグ職員のみなさんと、忙しそうに話をしていたワタルくんが戻ってきたようだ。腕を組んで、難しい顔をしている。これはなかなかに不機嫌なご様子。やばいかも、しれない。改めて考えれば「怪我をするな」という彼の言いつけを破っている。
「カスミくん、あとは任せていいか? 彼女を病院に連れていきたい」
「任せてください! 国際警察が到着次第、団員の身元を引き渡しておくので」
「よろしく頼むよ」
ワタルくんは「動かすぞ」と告げて、触れてくる。先ほどのように肩を貸してくれるのかな、と悠長に構えていた私は浮き上がった感覚に変な声をあげてしまった。あわてて彼の服を掴む。小さな歓声がカスミさんから聞こえた。
「お、おろして!」
「だめだ。足だって痛めている」
拒否する声を無視して彼は歩きだす。
「こっちのほうが痛いよ! 違う意味で!」
彼の手はそれぞれ私の背中と膝裏へ。重いだろうに軽々と持ち上げ、運んでいく。横抱きにされた私にちらちらと集まる視線。「見ていませんよ」という気遣いが逆に苦しい。
最後の抵抗とばかりに足をばたつかせると代わりに「落ちるぞ」とトドメの一言が降ってきた。
「落とすつもりなんてないくせに」
「わかっているなら暴れないでくれ。きみの傷に響く」
実際、変に動いたせいで身体は悲鳴をあげている。悔しい。悔しいけれど、諦めるしか選択肢はなさそうだ。
「せめておんぶとかがよかった」
「それもだめ。手当て≠ナきなくなるからな」
ちゃんと効果があるんだろう? といつかの言葉が返ってくる。
途端に背中に感じる手の体温があがった気がした。どこか嬉しそうな笑みを浮かべる彼に、そっぽを向くことで反抗する。残念ながら『あまり効果がないようだ』けれど。
ああ、もう。だからあなたはずるいのだ。