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いい返事を期待しているよ、とプラターヌに見送られ、アイルは研究所を後にした。しかし、予約していたホテルにチェックインしても、食事を取っても、シャワーを浴びても――ふとした瞬間に考えこんでしまう。

「未来のための、研究か……」
 
プラターヌの言葉が心を巡る。ポケモンと共に生きるためにポケモンレンジャーになった。どこかの誰かを助けたいと思ったから『時の歯車』の謎を追った。自分の在り方はきっとそういうものなのだ。それは迷うまでもなくわかる。
けれど、果たして自分は博士≠ノ相応しいのだろうか。プラターヌは肯定していたが、自信は無い。なにしろそういった勉強をしてこなかったのだから。

ポケモン博士になるためには、他の博士達からの推薦状および論文の審査が生じる。その研究がポケモンや人間、世界に有益かどうか――全てがクリアしないと博士≠ノはなれない。あえて資格を取らないこともできるが、メリットのほうが多いのも事実。
仮にアイルが資格を取るとしたらプラターヌが言っていたように「ポケモンエネルギー」の分野だ。その分野に研究者が少ないのも確か。自分の研究が未来の誰かを助け、今回のような――たとえば他の世界を救うとか――ができるのなら嬉しい。

「……どうしよう」
 
悩んでも、悩んでも、答えが出ない。やってみたい。でも、できないかもしれない。相応しいと言ってもらえた。なのに漠然とした不安が消えない。結局、一歩を踏み出せない。
バッグに入った携帯端末に目を向ける。手を伸ばしかけて、やめた。大きく息を吐き、アイルはベッドの中に潜り込む。

だが、寝ようと思えば思うほど、頭は冴え、覚醒していく。アイルはいい加減諦めることにした。ポケモンたちはすっかり寝入っていたので一人でこっそりと身支度を整え、部屋を出る――が、しかし。

「……起こしちゃった?」
 
いつの間にか足元へやってきたエネコに声をかける。エネコは首を横に振って答えた。元より起きていたのだろう。にこりと笑みを見せ、早く行こうと相棒を急かした。



ミアレシティは夜も賑やかだ。街灯の明かりが石畳に反射して、街全体に温かな彩りで飾っている。テラス席にはまだ人もポケモンも多く、どこからかヴァイオリンのメロディも聞こえてきた。
アイルはホテルから少し離れたカフェに入る。バータイムのそこは酒も提供しているらしい。おすすめだというホットワインをオーダーした。

冷えはするが凍えるほどでもない。この穏やかな夜を楽しみたくて、空いたテラス席へ。一口飲んだホットワインは甘く、ほどよいスパイスの風味が美味しい。独特のアルコール感はあるが、そこまで度数の強さは感じなかった。おすすめというだけはある。

「おいしいね」

ポケモン用のホットドリンクを舐めていたエネコも同意した。ぼんやりと夜の街並みを見つめながら、また一口を繰り返す。

「相席、いいかしら?」
 
ふいにかけられた声にはっと顔をあげる。向かいのチェアに、涼やかな目元でこちらを見つめる一人の女性がいた。まとめられた黒髪が、流れるような白い衣装に映えている。どこかサーナイトを思わせるような洗練された美しさを纏う女性は、やわらかな微笑を浮かべながら肩を竦めた。

「どこも満席で。あなたがよろしければ、お願いしたいのだけれど」
「あっ、はい! どうぞどうぞ!」
「ありがとう」
 
座るだけでも所作が磨かれているのがわかる。きっと『見られる』ということに慣れているのだろう。シロナとはまた違った美しさを持つ彼女にアイルは見惚れていた。
ホットワインを味わっていた女性はアイルの視線に気づくと「どうかしたかしら?」と話しかけてくる。

「す、すみません! ずっと見ちゃって。すごくお綺麗で」
「ありがとう。そう言っていただけるのは嬉しいわ。カロスへはご旅行かしら?」
「旅行……、旅行とは違うような?」
「あら、そうなの?」
 
きらりと彼女の瞳が光る。その瞳にじっと覗き込まれ、アイルはどきりと心臓が跳ねた。今までアイルが出会ったチャンピオンたちとよく似た、全て見抜かれてしまうような視線。それを感じ、思わず息をのむ。

「あたくしに話して心が軽くなるなら、聞くけれど」
 
どうかしら? と促された。酔いもあったのだろう。自分のことをなにも知らない誰かの意見を聞きたくなったのかもしれない。ぽつりぽつりとアイルは話し始めていた。
とあることを終えた。今までそれが目標で全て。だからわからなくなってしまった。次の一歩をどこへ踏み出していいのかわからない。そんなことをつらつらと。

「ゆっくり休んじゃだめなの? 見つかるまでこうして旅をするのもいいんじゃないかしら?」
「同じことを言われたこともあるんですけど……多分、私はゆっくりしているのが苦手みたいなんです」
 
なにより立ち止まっている間は彼に会ってはいけない気がして。
行く先を決めていても、いなくても、会いに行くと約束した。迷ったままでも、立ち止まっていても、きっと彼は受け入れてくれる。それを許せないのは自分だけ。

「アドバイスというか、新しい道を勧めてくれる方もいたんですけど。私にできるかどうかわからなくて。自信が無いんです」
 
アイルの言葉を聞き、女性は目を伏せる。じっくりと考えているのだろう。ホットワインのグラスの縁を細い指でなぞった。踊る湯気をしばらく見つめた後、ゆっくりと口を開く。

「『なにができるか』じゃないわ。大事なのは『なにをしたいか』なのよ」
「…………」
「結局、それが一番素直で強い気持ちって、あたくしは思うの」
 
今ある範囲で「できること」を探すなんてもったいない。この世界は広くて、たくさんの出会いがあって、隣にいてくれる人もポケモンもいる。だから己の枠を越え、「したいこと」を目指すべきだのだ。

「ポケモンと旅にでるとき『行ける範囲で旅をしよう』なんて思うトレーナーは少ないんじゃない? ジムバッジを集めよう、チャンピオンになろう――『したいこと』を目標にしているはずよ」
 
あなただって同じじゃないかしら? と女性は微笑む。

「したいこと……」
「ええ。したいこと。あなたを応援して信じている人がいて、ポケモンがいる。あなたはどこへだって、なんにだってなれるのよ。あたくしもそう。誰だってそうなの」
「私は……」
 
ふいに足元にふれる体温があった。目を向ければずっと傍にいる相棒がいる。アイルがトレーナーになってから、片時も離れないでいてくれた。それはこれからも同じ。自分だってずっと一緒にいたい。

「未来のための、研究――」
 
すとん、とアイルの中でなにかが落ち着いた。今までだってそうだった。『できること』を必死にしていたつもりだったけど、結局それは『したいこと』に繋がっていた。だから彼によく怒られていたのだ。「無理をするな」と。

「……私、『してみたい』です」
「ええ」
「誰かのために、未来のためになれるものを見つけたいって、すごく思います!」
 
口にすればあっという間に決意は固まる。身体が熱くなるのはワインのアルコールのせいではない。心が熱くなっているのだ。狭まった視界が広くなっていくのをアイルは自覚する。

「ありがとうございます! これで胸を張ってワタルさんに会いに行けます!」
「……会いに行く?」
 
きょとんと目を丸くしたのち、女性は表情を崩す。そこにはどこか子供らしさを秘めていて、今までとまた違った魅力を感じさせた。同時に好奇心を押さえきれないといった様子も伺えた。

「待って、その話も聞きたいわ!」
 
身を乗り出し、楽しそうに頬を赤らめる彼女から妙なプレッシャーを感じアイルはたじろぐ。どことなく漂うこの雰囲気から、どうやっても逃げられないと直感した。やっぱりこの人、あのチャンピオンたちに似ている! と心の中でアイルは叫ぶ。

最終的に全てを吐き出していた。否、そうせざるを得なかった。
特にお世話になった人がいる。また会いに行く約束もしていて、自分も会いたいと思っている。実はその約束のおかげで、このまま「さよなら」にならなくて安堵していたことも。
 
シロナさえ言わなかったことばかりをつい話してしまったのは、彼女が初めて出会った人だからだろう。
諸々を白状し終えたころには顔が沸騰しかけていた。そんなアイルに女性は「まあ!」と口を抑え、嬉々として言う。

「あなた、彼のことが好きなのね」
「……え」
「まさか気づいていなかったの? 彼のこと話している間、ずっと『あの人のことが好きだ』って顔していたのに」
「え、ええ!?」
 
もちろん、ワタルのことは好きだ。好きだけど、そういう好きじゃなくて、尊敬とか――そういうのもの類いなはずで。

「あ、あれ……? あれ?」
 
その理由を探せば探すほど、見つからない。代わりに溢れ出したのは違う感情。その気持ちがなにかをわからないほど子供じゃない。子供じゃないのに、今まで気づかなかった。思い返せば、シロナへ嫉妬だってしていたのに。

「違うことに頭がいっぱいだったのかもしれないわね」
「でもこんな、急に……!」
「恋なんて、いつの間にか落ちているものよ? 振り返って、ようやく理由がわかるの。理屈じゃないんだから」
 
確かに振り返れば振り返るほど、ワタルの好きなところが浮かんでくる。
バトルに真剣な横顔が好きだ。抱きしめられれば安心するけどドキドキもする。力になれないかもしれないが頼られたい。優しい微笑みを向けられるのが嬉しい。なにもしなくても、されなくても、ただワタルのそばにいたい。
自分の中でこんなにもワタルが大きくなっていたなんて。でも彼にはもう心に決めている人がいる。想いを告げる前に失恋は確定していることが、逆に恋心を逸らせる。会いに行きたい。でも、それはだめな気もして。

――嫌というほど追いかけるよ。どこにいても見つけ出してやるからな。
 
耳の奥でワタルの声が聞こえた。本当に追いかけてくれるだろうか。彼の心にいる人よりも優先して、自分を見つけ出してくれる?

「会いに行っちゃえば?」
 
女性が唆す。涼やかな目元を細め、楽しげにくちびるを緩めた。

「胸を張って会いに行けるのでしょう? 早速、会いに行ったらどうかしら。それで想いを伝えるの」
「でも、失恋確定で」
「なら余計に想いを伝えるべきよ。その恋を殺せるのは、もう彼しかいないのだから。なにより、もったいないわ」
「もったいない……」
「ええ。あなたが彼の恋を大切に思うのと同時に、あなたの恋もちゃんと大切にされるべきだわ。他でもない、あなた自身にね」
 
握りしめたグラスはまだあたたかい。しかし、ホットワインの湯気はすっかり落ち着いている。まだじんわりと熱を持つそれが冷める前に、アイルはいっきに残りを飲み込んだ。スパイスと甘い香り。そして感じるアルコール。白い息を吐き出し、ぐっとくちびるを噛みしめる。

「『なにをしたいか』ですよね」
「ええ、そうよ。『なにをしたいか』。ふふ、いい顔するじゃない」
「あなたのおかげです! ええと――」
 
お名前は、と尋ねようとするが女性は首を振って答える。

「あえて名乗らないのもいいんじゃないかしら? こういうのも旅の醍醐味よ」
「じゃあ、それで。でも、いつかどこかでまた会えたら、今度はちゃんとお名前聞かせてくださいね」
「ええ。もちろん」
 
頭を下げ、ホテルへ戻るアイルを女性は手を振って見送った。カロスの夜はまだ深い。それを味わうように彼女――カルネはホットワインを飲む。

「夜明け一番の便であの子は向かうのでしょうね」
 
想いの結果がどうだったかは気になる。けれど、知り合いの名前が出たから、きっとまた出会えるだろう。そんなあたたかな予感を感じながら、カルネは優しくアイルが消えた道の先を見つめた。


***


ポケモンリーグの総本山たるセキエイリーグは、職員たちと四天王またはチャンピオンが持ち回りで常に誰かが待機している。とはいえ、さすがに夜間はその人数も減り、昼間とは正反対にぐっと静かになる。なかでもとりわけ静かなチャンピオン執務室で、ワタルは積み上げた書類に目を通していた。昼間はバトルや緊急対応で忙しい。落ち着いてデスクワークをできるのは、なんだかんだ夜になってしまうのだ。
 
ふと机に置いたデジタル時計に視線を移す。気づけば、日付はとっくに回っていた。あと数時間もすれば夜が明けるだろう。
時刻とともに表示されていた日付に、あの約束を思い出す。アイルと指切りをして、こんなにも日にちが経っていたのかと他人事のように考えた。

ワタルは万年筆を置き、目を閉じる。力を込めて眉間をほぐした。少し仮眠を取ってから仕事を再開しようか。そう決めた矢先に、執務室のドアが慌ただしくノックされる。どうぞ、と声をかければ、顔を青くしたリーグスタッフの男性が飛び込んできた。彼の切羽詰まった様子にワタルも瞬時に表情を固める。

「どうした。なにがあった?」
「それが、チャンピオンロードのポケモンたちが縄張り争いをしていまして……」
 
リーグ付近に生息するポケモンたちは活発に動く個体が多い。そのため昼夜問わず、こうした縄張り争いが繰り広げられることがあった。野生ポケモンたちの営みに、人は手を出してはいけない。そのことから普段はポケモンたちの諍いを止めることは無かった。しかし、今回ばかりは事情が違うようだった。

「通報をしてきたトレーナー曰く、かなりの数のポケモンが気を荒立てているようです。周囲の被害も予想されます」
「そんなにか」
「はい。幸いなことに今のところトレーナーやポケモンの怪我、現場の被害などはないようなのですが、これが続く場合には崩落事故が起きる可能性もあるかと……」
「それは穏やかじゃないな」
 
向かおう、とワタルは立ち上がる。ドラゴン使いの象徴たるマントを身に纏い、腰にボールをセットした。ポケモンたちの頭に血がのぼっているのなら、圧倒的な力を見せつければその熱も下がるはず。そして自身の手持ちたちは「圧倒的な力」という言葉が、なによりも相応しいと自負している。

「場所は?」
 
執務室を出て廊下を突き進む。早足のワタルにスタッフは必死に追いつきながら答えた。

「チャンピオンロードの出口付近です。リーグ寄りの箇所で目撃証言がありました」
「わかった。一応、各方面に連絡を。可能な限り手加減をするが、何匹かは怪我をさせてしまうかもしれない」
「あら、ずいぶんと物騒ね。ワタル」
 
場違いなほどに凛とした声が響く。向かう先の壁にもたれかかりながら、微笑を浮かべているのは四天王のカリンだ。やわらかなブルーの髪を揺らし、ひらりとワタルへ向かって手を振る。彼女を一瞥し、ワタルは言う。

「ちょうどよかった。きみも一緒に来てくれ。チャンピオンロードのポケモンたちが暴れているらしい」
「そのことなのだけれど、どうやら解決したみたいよ」
 
えっ、と声をあげたのはスタッフだ。カリンは微笑のまま、言葉を続ける。

「ほんの数分前に続報が入ったのよ。一人のトレーナーがポケモンたちを鎮めてくれたみたい」
 
その言葉と同時にスタッフの端末が鳴る。彼は急いで通話ボタンを押し、耳に当てた。電話先の声がうっすらと漏れ聞こえてくる。どうやらカリンと同じことを言っているようだ。
通話を終えたスタッフはワタルに向かった勢いよく頭を下げた。

「申し訳ありません、チャンピオン!」
「大丈夫だ。むしろ何も起きなくてよかった。ただ、一応確認を頼むよ」
「承知しました!」
 
スタッフは再度ワタルとカリンに頭を下げ、持ち場に戻っていく。それを見送って、ワタルはカリンへと向き直った。

「わざわざありがとう、カリン。それじゃあ、おれは執務室に戻るから――」
「あら、もう少しあたくしの話を聞いていったほうがいいと思うけれど?」
 
含んだ言い方をする彼女に訝しげに眉根を寄せる。不機嫌そうなワタルの表情に怯むことなく、カリンは優雅に髪を靡かせた。

「そのトレーナー、たった一匹の手持ちでポケモンたちを落ち着かせたんですって」
「……それで?」
「その手持ちのポケモンがね。エネコ、なんですって」
 
瞬間、ワタルの周りから音が無くなった。自身の鼓動だけが、身体の奥から鳴り続ける。

「ポケモンたちの合間を縫って、仲裁するみたいに立ち回っていたらしいの。――まるでポケモンレンジャーのようじゃない? どこかの誰かさんが来たのかしらね?」
 
問いかけに答える前にワタルは走り出していた。頭を占めるのは彼女と交した約束≠フこと。
こんな早くに約束を果たしに来てくれた? しかもこの夜更けに? 少しだけ、ワタルの胸に淡い期待がわきあがる。そんなにおれに会いたかったのか? と。

関係者出入り口からワタルは外へ飛び出た。そこからさらに走ってチャンピオンロードへ向かう。息はまったく切れておらず、むしろずっと走り続けられる気さえした。
いつの間にか空は朝焼けを迎えていて、世界は淡く色づいていた。あの日、二人で見た朝を思い出させる光の中、彼女の姿が見える。
 
いつもの髪型に、いつもの服装。傍らには相棒のエネコがいることも変わらない。こちらに気づき、すぐに笑顔になるところも。ワタルがずっと好きなまま、変わらない。

「アイル!」
 
名を叫んで、駆け寄った。勢いのまま、アイルを抱きしめる。自身の腕の中に、彼女という存在がある。些細なことを大袈裟に感じるほど、アイルが愛おしくてたまらなかった。

「怪我は? きみが大立ち回りをしたことは知っているんだ」
「さ、さすが耳が早い……。大丈夫です、なんともありません!」
「本当か? きみの大丈夫は――」
「今回は信用してくださいって!」
 
悲鳴染みた声をあげるアイルに「今までの負債だよ」とワタルは笑いながら答えた。そして抱きしめる腕を少し緩め、彼女の顔を覗き込む。近くなった距離に、思わずアイルは視線を彷徨わせた。頬を赤らめながら、おずおずと答える。

「朝早くからすみません。それと、すぐに戻ってきちゃいました」
「そうでもないさ。おれにとっては嬉しいことだからな」
 
きみと離れるのは耐えがたい、と囁くワタルの声にアイルはわかりやすく息をのんだ。恋を自覚した心は素直である。

「約束守ってくれたんだな」
「はい。……私も会いたかったんです。ワタルさんに」
 
アイルは抱いた気持ちを伝える方法を、ここに来るまでの間たくさん考えていた。言葉、シチュエーションをさまざまに。もちろん玉砕をするつもりで。しかし、それらはただの机上の空論だということを痛感する。
今、ここが自分の気持ちを伝える時だと直感した。それがアイルの「したいこと」なのだ。

「――ワタルさん。あの、私」
「待って、それはおれに言わせてくれないか」
 
遮ったワタルの声にアイルは震えた。交差する瞳。その奥に宿る光に、色に、答えがあったから。この瞳をいつも向けてくれていたのに、なんで今まで気づかなかったのだろう。こんなにも彼は自分を――
言葉にしなくてもワタルの気持ちは伝わっていて、アイルの気持ちも相手へ伝わっていた。
お互いにそれぞれの想いが、心が――目の前にいる人を愛おしいと感じる気持ちの全てを理解していた。だからこそ、想いを音にする。しなければいけない。

「おれはアイルが好きだ」
「私もワタルさんが好きです」
 
とっくに昇りきった朝陽が二人を照らす。あたたかな日差しの中、二人のくちびるが自然と重なった。何度も、何度も。
 
ALICE+