「道、切り開くよ」
肩がコツン、と当たって背中合わせになる。斧を構えたものの、茉紘の姿をしたマネルを斬るのは気が引けた。
「アル。遠慮しなくていい。アルの斧くらい、僕は避けれる」
私の迷いを理解したのか、茉紘は短く叫んだ。ほんの少し心が軽くなる。茉紘はわかっていない。私が斬りたくないのは茉紘の容姿だ。壊れないでほしい、今のままでいてほしい。それはやがて失われる、命を宿すものにだけ感じる想いだった。
ただ、茉紘にここまで言われてしまったら仕方ない。斧を振り上げて偽の茉紘の腕を切り落とした。茉紘自身がそうなのか、それともマネルゆえなのか、茉紘の腕には骨がなかった。あっさりと落ちるその腕をしっかりと偽の茉紘は見つめ、ワンテンポ置いてから悲鳴にならない声を上げる。その声は茉紘の声からすぐに判別のつかない声になり、やがてやんだ。
「ちょっと、何したの?」
「斬っただけです」
「斬っていいとは言ったけど顔は傷つけないでよね。僕の悲鳴聞くとか趣味悪すぎ」
「そう言われましても……」
だいぶ自分勝手な茉紘の言い分も、彼がいつものペースに戻ってきていることを示しているようで嬉しかった。
私が彼を見つけた時、まるで別人のようで恐ろしかった。特別な目のおかげで本物と偽物を見分けることができたからいいものの、普通の人間から見たらあの光景は異様だ。広い空間を埋めつくさんばかりの、茉紘の姿。今でもその状況は変わっていないが、さらにあの量から増えたのか私の姿もちらほらと見える。
背後をちらりと見ればすでに茉紘は上空を飛び回っていた。鬼火を次々と出現させながらクナイを両手に、鬼火からあぶれた個体を潰している。
いつから彼はこれを一人で繰り返していたのだろう。討伐対象に攻撃力がほとんどなくても途方も無い作業だ。
「アル、ぼーっとしない!」
「も、申し訳ありません」
周囲に目を光らせている時の茉紘は次の作戦を考えている時、と相場が決まっている。これだけの数のマネルを全て討伐して他の人と合流するのは厳しいだろう。どこか……この、マネルで埋めつくされた空間にひと穴開けなければいつまでも体力と魔力が消費されていくだけだ。
どこかの映画で見たゾンビのように偽の茉紘は近づいてきていた。私をどうこうしようという考えは無いのだ、きっと。ただ目の前に人がいるから。
斧を振り上げて正面の偽茉紘の首に斧を横から入れる。やはり骨は無いようで私の力でも首が取れた。状況を理解していないようなマネルは呆然としたまま生き絶える。次、左から来た偽茉紘に、そのままの斧の流れで胴体に直接叩き込んだ。まるで土にのめりこむように斧は体の半分まで突き刺さり、またマネルは絶命した。
これは茉紘では無い。何度自分に言い聞かせても斧を入れるたびに胸が痛む気がした。自分をひどく気にかけてくれている人を殺すなんて。
「アル、決めたよ」
「……なんでしょう」
「僕にもう一回強化かけて。焼け野原にしてやる」
そう笑った茉紘の表情は、マネルにも真似できないものだった。