複雑な気持ち



Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 とっさにその場の土で作り上げたクッションでクオリアの体を受け止める。ほんの少しの計算ミスでバランスが崩れたのだろう。ちょうどよかった。クオリアは人間の女性にしては背が高い方だ。打たれ強いとはいえ、一メートル八十センチから受け身も取らずに落下すれば多少の怪我は追うだろう。
 異常なほどクオリアの姿をした魔物が溢れている場所。とっさにクオリアを助けたが、これが偽物なら失策だ。驚いたようにこちらを見るクオリアの表情からそれが本物だとすぐにわかるのだが。
「レイ……」
「なんだこれは」
「俺が聞きてぇよ」
 クッションから飛び降りると同時に土は元に戻る。クオリアの元に行こうにも、俺の目の前にすらクオリアの姿をしたマネルがやってきていた。
「多少は手伝う」
「おう、頼むわ」
 クオリアは魔法が得意ではない。魔力が入学時より大きくなっているのは勘付いているが、それでも使うのに慣れてはいないのだろう。ただ鉄パイプだけで殴り殺すには、このマネルの数はあまりにも多すぎる。
「……クオリア」
「あ?」
 瞬時に体勢を立て直して殴り込みに行こうとするクオリアに声をかけた。視線はもうマネルたちに釘付けにされている。決してよくはない頭の中で、今からどう動いてやろうかと考えているのだろう。
「足場なら作る」
 自分でもどうしてこのようなことを言っているのかわからなかった。本当は協力するのも気が進まないのに。自分が彼女に対して抱いている感情の正体が、嫉妬であることはわかっているけれど認めるまでにはだいぶ時間がかかっていた。
 彼女は少し驚いたようにその顔が硬直して、すぐにニヤリと笑った。
「おう、行くぜ!」
 走り出したクオリアが一つ、跳ぶ。
Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 クオリアの鉄パイプがピンク色の髪の毛にのめり込んだと同時に彼女は宙返りした。受け止めるように土を動かし、クオリアはしっかりと着地する。群がる二体のマネルに蹴りと鉄パイプを同時に叩き込んだ。あまりにも鮮やかな動きだ。見とれかけて、ハッとする。
Coagulare il nostro signore凝固せよ我が主
 周囲の土を根こそぎ浮かばせ、固めて行く。一つ落とせば一匹殺せるほどの大きさ、重さの土の塊を十数個並べていった。クオリアの動きに翻弄され、頭上に浮かぶ土の塊に気づかないマネルたちはあまりにも間抜けだった。
Les ciao giuその身を降らせ
 ドシャ、という音が複数重なった。しっかりと質量を持った土の塊は人の頭に直撃して人体を倒して行く。クオリアの進路は邪魔せず、主に彼女の背後にいるマネルたちを殴り殺した。
 音に反応してクオリアの視線が少しだけ背後に回る。変わらず空中に浮かぶ土の足場の上を駆け抜けながら確実な一撃を叩き込みながら殴り殺していた。
 何体かが俺の存在に気づいたのか、青い目をこちらに見せた。ちょうどいい、試したいことがある。クオリアの足場への魔力供給は継続しながら、土の塊の魔力を抜いた。
Scuotendo la terra揺れる大地
 揺れ出した地面に驚いたのかマネルの動きが止まる。超局地的、俺の目の前の地面だけを揺らしているからクオリアは気づきすらしていない。
Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁
 ちょうど地面が揺れているところの周囲を囲うように土の壁を出現させた。今回はただの壁ではなく、中にいるマネルたちを閉じ込めるようにうまいこと加工する。
Iron Maiden terrapin土の処女
 カゴの中の鳥。そんな言葉が頭に浮かぶのと同時に壁を収縮させた。挟まれた十体ほどのマネルは微かな抵抗を見せながら壁と壁の間に挟まれ、やがて力尽きて潰された。歪んだクオリアの顔をしっかりと見てしまったせいで夢に出て来そうだ。眉間に指を当て、目を閉じて頭を振った。
「お前便利なの持ってんじゃねえか!」
 さすがにマネルの悲鳴で気づいたのだろう、クオリアの怒号が飛ぶ。答えずにいると彼女はまだ土に戻していない壁の上を飛び越えて俺の横に着地した。
「俺とお前の魔法で一箇所に誘導する。どれくらいの範囲なら今のやつできるんだ?」

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