「三」
茉紘を横抱きに抱え、森の中を走る。数匹のマネルが追ってきてはいるがあそこもまだ爆発圏内に収まっているだろう。
「二」
茉紘のカウントは正確だ。茉紘の中で解除するタイミングを完璧に図っている。それは私の逃げる速度すらも思考のうちに入れているのだ。
「一」
ジリジリと、茉紘の作ったマグマのような爆弾によって空気が熱せられている気配を感じる。この魔法で茉紘はだいぶ疲労するだろう。私も残弾は残り少ない。どこかで休息を取らなければ、ミラージュに襲われた時危険だ。
「ゼロ!」
茉紘が指をパチンと鳴らした。コンマ一秒、爆発音。しまった、耳が……! 茉紘も直前に耳を塞いではいたようだがそれでも顔を顰めていた。耳鳴りが止まない。世界の音が消える。それでも足は止めなかった。
あれだけの威力の爆弾ならその場にいたマネルはほとんど焼け死んでいるだろう。あの爆発音に惹かれて他の魔物が寄ってくるかもしれないし、近くで接敵していた生徒の耳が短時間使い物にならなくなっているかもしれないがそれは仕方ない。
茉紘がこちらを見上げ、何かしゃべっているが口元の動きが小さくて読み取れない。目をスキャンモードに変更し、じっと見つめる。
「いい加減この抱え方やめなさいよ!」
……と言っているのだと思う。若干怒ったような茉紘を申し訳ありません、と口パクで伝えてお姫様抱っこに持ち替えた。満足したように茉紘の腕が私の首に巻きつく。
進んでいる方向は正しいはずだ。周囲の生体反応を調べると二人の生徒らしき姿が見える。そこもどうやら開けているようだ、急ごう。
やがて耳が正常に戻ってきた頃。こんなにも森の中には音が溢れていたのかと驚いた。茉紘をその場におろし、開けた場所に少しずつ近づいていく。木陰から見た瞬間、その様子を見て茉紘がため息をついた。
「……何してんの、アンタたち」
茉紘の声に振り返ったその二人は少なからず驚いているようだ。茉紘がため息をついたのはそれが理由ではない。
「チビ!」
「茉紘……と、アルミリア」
「うるさいわねブス! ……ていうかほんと、この状況は何、なんなの」
「……参りましたね」
その二人……レイとクオリアはちょうど交戦している真っ最中のようだった。こちらを振り向いても特にその動きが乱れることはない。
困ったことになった。私もため息がつきたくなる。茉紘の魔力も、私の魔力も残り少ないのに。今すぐ休んだほうがいいのに。
茉紘が天を仰ぐ。その先には緑の枝木しかないことはわかっているはずだ。クオリアが一匹のマネルの頭を殴り殺した。レイが数匹のマネルめがけて土の塊を落とした。それでもまだ終わらない。
その場所も、埋めつくさんばかりのマネルで溢れていたからだ。