「忍鬼、死を望むことなかれ」
僕の故郷で代々伝わっている家訓のようなもの。僕たちは自分で死ぬことができない。自分の魔力が少しでも含まれている攻撃は、傷をつけると同時にその場で修復が始まる。死ぬ方法はただ一つ、外部からの攻撃のみ。
ああ、死ぬのかな。無意識に右手が左胸を抑えていた。
僕たち忍鬼は炎から作られる。心臓、核となる種火は母の炎から分離され、僕たちの体を形作った。日が経つに連れて空気中の魔力を摂取しながら少しだけ成長するが、僕たちはおおよそ今の見た目で止まる。心臓の炎からは常に体の節々にまで炎を血液のごとく流していて、怪我をすると炎が外に漏れ出していくのだ。心臓を保つこともできないほど炎が外に出ると、今度は己の炎が己を焼き尽くす。僕たちの死体は残らない。僕たちは焼き尽くされた後、炎となって母の胎内に戻っていく、と伝えられていた。
実際に僕は仲間が死ぬところを見たことがない。ほとんどの忍鬼は、死を目前にしたとき自分自身がそれを迎えている。他人の死を看取ることなどほとんどない。
きっと僕も同じになる。自分以外の同族の死を見ることなく、きっと、ここで。
腕がどさっと目の前に落ちた。吹き飛ばされたマツリカの体から分離したものだろう。それがなんとなく、僕を導いてる気がして。彼女と同じところに僕はいけないけれど、ここで終わってもいいのではないだろうか、と。
「茉紘!」
目前に迫ったワームの口の中は完全な暗闇で、ほんの少し怖かった。声の直後、ワームに何かがぶつかる。飛沫がとんで僕の*が濡れた。水の塊がワームを横から殴ったらしい。吹っ飛んだワームが木にぶつかって倒れた。
「……ヘルデント」
「何してるの、死ぬよ?」
アッカの制服に身を包んだその人は髪のような空色の外膜を翻してそこに立っている。冷気がその場を取り囲んだ。ヘルデントの作る氷の塊が空気中にボコボコと生まれていく。次の動きに移ろうとしているワームへ、ためらうことなく突き刺していく。
助けてくれたのだと言うことを理解したのは、少し後になってからだった。
「あ……ありがとう」
「ボクは大丈夫だけど、茉紘は大丈夫なの?」
大丈夫、と答えようとして大丈夫じゃないことに気づく。大丈夫、大丈夫なはずだった。右手小指の指輪を眺める。これで乗り越えたつもりだった。あの子が死んだことを。
薄々勘付いていることがある。それはきっと、周りがわかっていて僕だけが知らなかったこと。それなら僕は乗り越えたい。
「……大丈夫じゃない」
「え……」
よく考えてみれば、たかがでかい虫に殺されるなんて絶対に嫌だ。あの子の死体に殺されるのならまだしも、得体の知れない魔物に命を取られるなんて情けなさすぎる。
「でも、まだ死ぬわけにはいかない」
鬼火を出現させる。ほとんど使用していなかったせいで魔力は十分だった。土に潜ろうとする巨大なワームに向けて照準を合わせる。
「僕が生きるのに協力してくれる? ヘルデント」
「……うん、もちろん。アレが潜る前に倒そう」
隣に並んだヘルデントが再度、氷を作り出した。だいぶ背の低い僕の、肩がヘルデントの腕に当たる。
「うん。……行くよ!」
ワーム共闘
ヘルデントくんちゃん( @r_playing_9 )と