その、守りたいもの

クオリア
ハウンド討伐02



「ヤァッ」
 周辺に見える最後のハウンドを思いっきり叩き落とした。汚臭を残したまま、その獲物は沈黙した。息を一つ、吐き出した。ジジイを第五避難所に送り届けてから、地上を走り目につくハウンドたちを一つ一つ潰していった。もう何匹倒したのか記憶にない。それほどこのアイゼンの地は奴らで埋め尽くされていた。
 何度か、ヘルハウンドと応戦していたチームに遭遇したが、あれは一人では厳しいだろう。チームでも苦戦していたところもあったし、ヘルハウンドには手を出さないほうがいい。俺ができることといえば、周辺に群がるハウンドの数を減らしてやることくらいだ。
 ……無力だ。あまりにも、無力すぎる。あのデカブツが闊歩して崩れていく町並みを立て直すこともできないし、あのデカブツをさっさと片付けることもできない。
 でも今はそれを嘆く暇はない。一人でも多く救わなくては。
「……っと、ここにはもうハウンドいねえか」
 さて、移動しようと鉄パイプを引きずりつつ歩き始めた、そのときだった。
「……ぁ……ママぁ……どこぉ……」
 これは、ガキの泣き声……? 慌てて周辺を探す。この辺りはヘルハウンドの通り道だったせいか瓦礫が多い。もしかしたら、瓦礫の下に入っているのかもしれない。
 建物の陰にその声の主はいた。うずくまって大泣きしている。なぜ今まで生きて入られたのか不思議なくらいその子供は無防備だった。
「うぁぁぁ……ママ……?」
「うぇっ、ママじゃねえけど……」
 キョトンとした目をして一瞬俺を見つめるそのガキの顔がまた歪み始める。また泣く、と思った瞬間、空気が動いた。
 ハウンドの匂いが鼻をかすめた。ガキの元に飛んで左手で抱く。鉄パイプを握りしめ、向かってきたハウンドに突き刺した。文字に表せないような唸り声をあげ、ハウンドはその場に倒れる。鉄パイプを抜いた時の血がその場にビシャッと広がった。
「っ、はぁ……、おい、大丈夫か?」
「う……うえ……」
「頼む、泣くな……。いいか? 俺の首にしっかり掴まってろ。絶対離すんじゃねえぞ、わかったな?」
 金色の髪の毛、青緑の目。しっかり見つめて言葉を言うとガキはこくりと頷いた。片手でその体を持ち上げ、立ち上がる。ハウンドがいると言うことは常にその周辺にヘルハウンドがいることを考えなくてはならない。できる限り、見つからないように避難所へ向かおう。片手じゃできないことが多すぎる。



「はい、お待ちどーさん」
「うん……」
 あの場所から一番近い、第三避難所へようやくたどり着いた。幼い体でもずっと担いでいると腕と肩がこる。ぐるぐるとガキを持っていた方の腕を回した。
「どうした? 避難所に来たからもう大丈夫だぞ」
 まだ不安の表情が抜けないガキが俺の服を掴んで離さなかった。
「ママ……いない……」
「あー……」
 この子を避難所に連れて来ればなんとかなると思っていたが、確かに考えるとこの子のママがここにいる確証はない。ガキがかなりの距離を移動していない限りはガキの母親もこの避難所にいると思っていた。これだけ人がいる中にガキを一人残すのも心配だ。
「あ! ガムくそ女!」
 どうしたものかと考えあぐねいていると、正面からうるさい声が聞こえた。
「あ? ……んだよ、クソ野郎様かよ」
「クソ野郎様じゃない! ヴィンス様と呼べ!」
「うるっせえなあ。呼び方なんてなんでもいいだろうが。てかよ、お前ここで護衛してんのか?」
 きゃんきゃんと喚くヴィンスを適当にかわしながらたずねると、むすっとした顔をしながら答えてくれた。
「ふんっ、俺様もこの地の危機を救ってやろうと出向いてやったんだ。褒めても」
「ああ、ならこのガキの母親探してやってくんねえかな」
「最後まで聞け!」
 プンプン怒るヴィンスの声がうるさい。ガキを指差すと、なんともムカつく顔をして俺とガキを見比べた。
「誘拐……」
「どう考えてもちげーだろうがよ。いいから早く探してやってくれ。この近くにいたから多分ここに母親も来てると思う。頼んだぞ」
「あ、おい!」
 踵を返してまたハウンドを探しに出ようとした。ヴィンスの声はあからさまに無視する。ただ。
「この場で手の空いているテトイ生はすぐに第五避難所へ向かってくれ!」
 教師らしき人間の声に体が止まった。避難所にいた学生たちも声を発した教師の方を向いて動きを止めている。
「大型ヘルハウンド二匹と多数の小型ハウンドが第五避難所を襲撃した! 被害がこれ以上広まる前に、現場に直行して討伐してくれ!」
「なんだ、物騒だな……」
 教師の言葉の最後も、ヴィンスの言葉も耳に入らなかった。
 第五避難所は、さっき俺がジジイを送り届けた避難所だ。

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