09

「レイ、この音はまずいです」
Gemiti le mie ali唸れ我が翼
 セブの言葉と同時に解放詠唱を唱える。翼が熱を持ち、一度羽ばたいた。数メートル右前方の壁が崩れまるで生きているかのような火柱が立ち上った。先ほど遭遇したトラップと同じもののようだ。全く同じものなのか、また別の誰かが踏んでしまったトラップの余波なのかはわからないが、ここは迅速に逃げる必要があるだろう。
 オスクロルをさっと抱きかかえ走る。水路の位置は先ほど同様、魔物たちの悲鳴でわかっていた。
 かくして、なんとか水路に到達し火柱もどこかへと消える。ほっと胸を撫で下ろし水路から通路へと戻った。
「結構頻繁ですね」
「ああ本当に……困る」
 翼を動かすのも楽というわけではない。速度が出るとはいえ走るのと同じくらい疲れるし、解放詠唱だけで負担が大きいのだ。
 不便だ、と思う。こんなことをしなくても使いこなせている生徒たちを見ていると、三年にもなって何をしてるんだろうと自己嫌悪に陥る。
「レイ、先を急ぎましょう。また邪魔される可能性があります」
「ああ」
 オスクロルを足元に下ろす。辺りは静寂に包まれ、オリオラのほのかな光とオスクロルの目だけが闇を照らしていた。
 先ほどまで浸っていた感傷は何処へやら、今はもうただ心臓がうるさくなっているだけだ。こんなトラップばかりで体が持つだろうか。
「……前言撤回します。疲れているようであれば休息を取るべきかと」
 足元でオスクロルがくるくると回る。ふわふわの体毛が足に擦れてくすぐったい。俺の心情をわかっているのか、自分で癒せと言わんばかりにこちらを見上げていた。頭をひと撫でして前を見据えた。
「いや、問題ない。翼の制御のいい練習になる。それにまだ遺跡に入ってからさほど時間も経っていないしな」
 ここでは感傷に浸る間もないのだ。未開の遺跡だということを再認識しなくてはならない。今まではオリオラや、あまり大きくなく攻撃的ではない魔物たちとしか遭遇していないが、もっと大きな魔物や攻撃的な魔物だって潜んでいる可能性はある。
 昔の記憶が意思と共に滞在しているこの場所ではあるような気がするのだ。何かを守るようにこうしてトラップが発動されるのも、きっと何かの原因とつながっているような気がする。
 グッと気を引き締めて一歩、また一歩と歩を進めた。念のため、トラップの余波の注意喚起でもしておこうか。