04

 先ほどの疲労を回復するように比較的歩の進みはゆっくりだった。突如、オスクロルの動きが止まる。どうした? としゃがんだ時、何かこの遺跡には似つかわしくない色が目の端に映った。
「あれは……」
「データ参照。おそらく水銀のようなものかと」
 水銀。液体の金属という物珍しい物質だ。見た目は銀色で美しいため、つい眺めてしまうが実際には毒性の強い物質でもある。その水銀らしき液体が天井から降って来ているらしい。鼻が効いたのかオスクロルはそれで立ち止まったのだろう。
「オリオラ、おいで」
 オリオラのほのかな光で周りを照らすが、あたりは一切何の変哲も無いただの石壁が続いている。脇道もなく、ただただ一本の道が続いているだけだ。どうしようかと考えあぐねいているとオスクロルがその場にしゃがみ込んだ。
「オスクロル、大丈夫か?」
 不安そうな視線を浮かべるオスクロルをそっと抱き上げる。その時、天井から地面に落ちた銀の液体が跳ねて俺の手の甲に当たる。ピリッとした痛みを感じ、思わず後ずさった。
「セブ、ここを切り抜ける方法は?」
「……特に思いつきません」
 体に当たれば害があるのは明らかだ。オスクロルもかなり憔悴しているし、ここは分かれ道のある場所まで戻って他の道から回り込むしか無いだろうか。
 そう結論づけ、Uターンして戻ろうとしたその時。
「レイ、ご覧ください。毒が消えました」
「え?」
 オリオラを手前にやり、明かりを灯すと確かにそこには何もなかった。床は多少腐敗し、穴が開いてはいるが天井からの銀色の毒はない。一体何だったのだろう? 時間によって変化するトラップか何かなのだろうか。
「特に危険はなさそうですが、どうされますか?」
「いや、進もう。何が原因かわからないが降ってこないのなら大丈夫だろう」
 少し臆病になりながらも銀の毒の雨が降り注いでいた部分を駆け抜けた。振り返ってもやはりそこには何もなく、何だったのだろうという虚無感に支配される。
「セブ、無線機を出してくれ。念のためここのトラップを遺跡内にいる生徒たちと共有する」
「かしこまりました」
 セブの口があっと開く。中から無線機が登場し、掴んだ。この無線機は遺跡に入る前に教師から支給されたものだ。生徒同士の情報共有に使えとのことらしい。
 無線機に情報が入ればセブの口から出力される。アイボを持たない生徒たちはもちろんこの無線機から情報が聞けるのだ。入力のコマンドを指定し、そこに言葉を吹き込んだ。