05
「すぐそこに空間があります、レイ」
「ああ」
オリオラの灯火は数メートル先までの空間をしっかりと照らしてくれていた。漂うオリオラのすぐ横の壁からは空間ができている。
「……これは」
そこにいたのは目の前にいるオリオラと同様の魔物。つまり、二匹目のオリオラが空間の中心にぷかぷかと浮かんでいた。一緒に連れていたオリオラは仲間を見つけた喜びからか、空間にいたオリオラに近づいていく。
空間の中心がほのかに明るさを増す。遺跡の中とは思えないほどの明るさに安堵のため息が漏れた。ふと視線を空間の隅へとやる。
光と影というものは、やはり相対して生まれるものだ。光があるから影ができ、影があるところには光がある。そして影は光が動けば、揺れるのだ。
中央で戯れる光源が揺れるたび、部屋の隅の影も揺れて行った。不思議とそこから目を離すことができない。揺れる影が迫る。目の前に。徐々に、大きくなっていく。俺は知っている、この、影を。
*
随分と静かな夜だったような気がする。いつもは聞こえていた動物たちの遠吠えや鳴き声もその日は聞こえなかった。
どうしてか不思議と寝付けなくて何度も寝返りを打っていた。俺の部屋はおそらく、同年代に比べれば広くそして寂しかった。部屋とは別に父の書斎があり、俺の部屋にはむしろ本は少ない。眠れないから勉強でもしようか、と体を起こしたその時。
悲鳴だった。甲高い悲鳴。おそらく母のものだろうと推測した。慌てて部屋を出ようとドアを押してもなぜかドアは開かなかった。ドアノブをガチャガチャと動かす。鍵は内側からかけるもので、滅多に締めることなんてなかった。どうして開かない?
手元に魔力を集中する。何も深いことなんて考えていなかった。とにかく何があったのか知らなくては、とそれだけだった。
「父さん! 母さん!」
ーーーGUOOOOOOOOOOO
俺の声と重ねて人間ではない声が聞こえる。魔物……? そんな、この屋敷の結界は? 少なくともハイリヒンメルにいる魔物の力には耐えきれるほどの強度の屋敷だったはずだ。どうして……!
ようやく手に込めた魔力のおかげかドアノブが吹っ飛び、ドアが開いた。屋敷は二階建てで、玄関を中心に大きく吹き抜けになっている。家の廊下全てをてらさんばかりのシャンデリアが本来ならば目の前に飛び込んでくる、はずだった。
*
「レイ。レイ!」
セブの声にハッと意識が覚醒する。気づけばそこは遺跡の一室で、オリオラ達はまだ戯れていた。足元のオスクロルが心配そうに足元にすり寄り、セブはせわしなく頭の周りを飛び回っていた。
闇の魔物などどこにもいない。当たり前だ、あれはあの夜の記憶。あれ以降似たような魔物は見たものの、同じだと感じるものは一つもなかった。あの時感じた魔力。怨念にも似たそれを持つ野生の魔物などどこにもいない。
「ああ、……大丈夫だ。ここにはもう何もないようだな」
連れていたオリオラを呼ぶ。少し残念がるようなそぶりを見せたオリオラは渋々付いてきた。足元のオスクロルに大丈夫だ、と示すために再度ぎゅっと抱きしめた。