06
その部屋に入った時一番最初に目に入ったのは数多の水瓶だった。その部屋の中心には窪んだ溝が通っている。
「ここは……」
以前、トラップの火柱から逃げた際にも水路を見つけたが、それと繋がっているのだろうか? オリオラの光を頼りに水瓶に近づき、中を覗こうとした。
『祝福された婚姻ではなかった』
少し前の部屋で経験したような現象が再度起こる。水瓶に触れなくとも頭の中に直接声が響いた。不思議と、一番最初に入った部屋と同じ人の声だということがわかってしまった。
『話を聞いた街の人は皆、私を引き止める。それでも私は彼と共に行きたいと願ったのだ』
どこか悲壮感に溢れたその言葉に胸が痛くなる。
『星の瞬く夜。家財道具を詰め込んだ荷車を引いて、私はあの人と国を出た。華美な暮らしを望む気はなく、唯一持ち出した装飾品は普段からつけていたイヤリングだけ……』
意識を外側から押し出されるように、その声は聞こえなくなった。
「……イヤリング」
「何か言いましたか、レイ」
「いや」
異国の人との結婚だったのだろう。この……声の主は。果たして彼女の祖国がここなのか、嫁いだ国がここなのか。まぁおそらく後者であろうが。もしかしたら獣人と人間の結婚だったのかもしれない。彼女がいかにして彼に恋愛感情を抱いたのかも、少しだけ気になった。俺にはまだ経験のない感情だ。
彼女の祖国は彼女の結婚を祝福しなかったらしいが、結局は彼女が婚姻したおかげでこの国に文明がもたらされたのだろう。それにしてもイヤリングか。
この遺跡の中にはいくつかの宝があると聞いていた。教師に確認を取れば手に入れることも可能らしい。古いものだから歴史的価値があるのなら高値で売却することも可能ではないか。探してみる価値はあるかもしれない。
「セブ、今から言うことを記録してくれ。内部で出力できるか? メモか何かに」
「先ほど記録したことに追加してまとめさせていただきます」
「助かる」
セブに先ほど聞いた内容を告げながら窪んだ溝の上に立つ。水路は干上がっており、先ほど逃げた水路とは繋がっていないようだった。かつてはここに水を引いていたのだろう。
少しだけ想像した。この遺跡の中で、かつて発展していった人々のことを。その姿は俺の目の前だけに亡霊のように浮き上がり、すぐに蜃気楼のごとく消えていった。
たくさんある大きな水瓶のうちの一つに近づき、なかを覗く。かつての栄華の気配はどこにもなく、ただ蜘蛛が巣を張っているだけだった。