07


「……嫌な予感がする」
 次の部屋は案外しっかりと扉が閉まっており、部屋の壁も腐敗せずに残っていた。中には何かあるだろう。それはわかるのだが、胸騒ぎがする。大丈夫だろうか。
「素通りしても構わないのですよ、レイ」
 セブは心配そうに言う。オスクロルも不安そうに足にすり寄っていた。
「……いや、念のため基本詠唱だけ唱えておこう。尻込みするほど危険ではないはずだ」
 息を一つ吸い込んで、改めて基本詠唱を唱える。魔法を使うための詠唱だが、いわばオンオフスイッチの役割のようなものだ。これがないと魔法の制御がさらに効かなくなる。
Dia della terra, Dia del cielo. Dare quel beneflcio天の神よ、地の神よ。我にその恩恵を与え給え
 魔力とは電力のようなもので、ずっとオンにしておくと魔力は減り続けいつか底をつく。人間でいうと疲労や睡魔に襲われたりするわけなのだが、それを防ぐためにはこまめにオフにしなくてはいけないのだ。
 こんなことをしなくてもあっさり魔力を制御してしまう生徒はこの学園にたくさんいるだろう。……自分が少し情けない。
「……入るぞ」
 戸を開ける。一歩、足を踏み入れるとそこの温度だけどうしてか一段と低かった。
 部屋の広さはそこまでではない。ただその中央には黒茶けたテーブルセットと、……そこに腰掛ける骸骨がいた。
 嫌な予感の正体はこれだったのか。思わず身構える。
『なぁに、そう年寄りを邪険にするもんじゃないよ』
 骸骨はそう言うと不気味にケタケタと笑う。
『ちょっとばかし付き合っておくれ。ここは客が少なくて暇なのさ』
 この世界には様々な種族がいるが、死んだ魂が戻ってくると言う事例はおとぎ話に等しい。冥界の存在はこの世界とは別のものであり、実証されていないからだ。
 今入ってきた扉を後ろ手に探る。タイミングを見計らって逃げ出そう。
『遠慮なんざおやめ!さぁその扉を開けてみな』
 え? と思うまもなく、振り返ったその扉は部屋の入り口ではなかった。そこにあったのは巨大なクローゼット。背後から骸骨の声が降り注ぐ。
『あの子は白い服が好きだった。仲間内で飲むとすぐに何かこぼしちまってね。シミをこさえて帰ってきては子供みたいに小さくなってたもんさ』
 目の前のクローゼットはやがて真っ白な光に包まれた。その眩しさに思わず目を閉じる。意識は一瞬、消えた。
 ……目を開けるとそこはなんて事のない通路だった。周りには分かれ道や扉などはなく、無機質な石壁がずっと続いている。オスクロルもセブもオリオラも特にダメージを負った気配はなく、隣にいた。
 記憶はあの白い光で途切れていた。今のは一体、何だったのだろう……?