02

 部屋を出て少し、癒しの気配を察知してそちらに目をやると白衣を纏った猫……それ以外に表現の方法を持たない……がいた。無言で近寄るとつぶらな猫目がこちらをじっと見つめている。しゃがんで両腕を伸ばすと無言で猫は腕の中に飛び乗った。
「はぁ*、今日もいい体してるよ、アンタ」
「にゃあん」
 猫らしく鳴いたスミソを撫でながら顔をうずめ、息を吸う。殺伐とした空気が出回ってはいるものの、こうした癒しもきっと必要ではあるのだ。
 散々もふもふを堪能したあと、どうやら進行方向が逆だったようでその場で別れた。さっきの部屋に戻ってもどうしようもないのは目に見えているからだ。
 次の部屋の入り口には人が数名溜まっている。また何かあるのかと部屋に近づくものの、その理由はすぐにわかった。近づくごとに増していく熱はただ事ではないことを物語っている。
「あっついねぇ、なんだってんだい」
 数名の指導員の間を縫って部屋の中を覗き込む。どうやら部屋自体が熱を放っているらしい。非常時のトラップでも発動したのだろう。
「キルベラ」
 声をかけられて振り向くとよく見知ったピンク頭がいた。今日は桃色のやつによく会う。
「なんでトラップが発動してるんだい、綺一」
「知らないよ。僕が来た時にはもうこうなってた」
 彼に聞いたところでどうしようもないことはなんとなくわかっているものの、何もわからないことに少しだけ落胆した。
 普通じゃない。誰もが感じ始めている感覚はこの後どうなっていくのだろうという不安にも転じてしまう。終いにはさらなる混乱を巻き起こす。一人でも冷静な人間がいないと。深呼吸をして部屋の中をもう一度確認した。
「何か使えそうなもんはないかねぇ」
「……アレとか?」
 ものが多いわけではないせいか、珍しく綺一がすっと指をさした。そこには金属が一ケースほど置いてある。ただでさえ熱せられていてさわれそうにもないそれは、さらなる部屋の奥にもあるようだ。
「じゃ、アタシはこれもらって他のとこにいくかね」
「奥のはどうするの」
「どうも。アンタが決めればいいだろう」
 じゃ、と手を振って振り返らずに部屋から退散した。少しの間しかいなかったにも関わらず額や体の節々に汗が滲んでいる。あんなトラップを設置したやつを殴ってやりたいほどだ。また増えた素材をどうしようかと考え込みながら次の部屋へと向かう。

犬丸綺一くん(@KaEdE0928_s)
スミソさん(@seiyui_)