彼が百何歳かの誕生日を迎えた。一度ちゃんと数えてみてと頼んだことがあった。彼はめんどいとだけ言ってベッドにがっていた。それがもう一年前だ。歳をとるにつれて一年が早く感じるのは本当らしい。
「おい、何してんだよ」
「プリンのカラメル作ってる」
「マジ⁉」
「マジ」
「いつも頼んでも作ってくれねぇじゃん」
「今日は葛葉の誕生日だからね」
「誕生日最高だな‼」
誕生日に特別な思い入れはないが行事ごとなどで自分好物を食べられることは相当嬉しいようで、ルンルンで自分の部屋に戻っていった。
キッチンに静寂が訪れる。人間は独りで静かな場所にいると、余計なことを考えることが多い。それは例え特別な日であっても同じだ。
彼はいつまで私と一緒に居てくれるのだろうか。ほぼ不死に近い存在の彼と、いつかおばあちゃんになる私。飽き性だからあと数年でいなくなるかも知れない。いや普通の人間同士のカップルだって長続きしないことだってざらにある。そう気にすることではないかも知れない。だが、人外と人間は生きる時間がそもそも違う。葛葉はよく「人間は脆い」という。彼からすれば人間は割れ物に近い…もういっそのこと私を吸血鬼にしてほしい。あ、やばい泣くかも「ぉ…ぃ
「ぉ、おいって!!」
「はい!!??」
呼ばれた方を向くとすぐ近くに葛葉がいた。それと同時に少し焦げ付いた匂いがした。
「カラメル焦げてる」
「あ、ほんとだ」
「しっかりしろよ」
「ごめ〜ん」
「きついなら無理すんなよ」
「大丈夫、考えごとしてただけ」
なに考えてるんだ、今日は葛葉の誕生日だ。こんなこと考えている暇はない。
「ならいいけど」
そういうと少しむすっとした顔をして部屋へ向かった。私はその背中を見ながら苦い香りをシンクに流した。
人間は脆い、爪を立てれば容易く血を流すし力を入れたら折れそうだ。そして心も脆い。
生きる時間が短いと考え事が多くなるのか、あいつもたまに何か考えている。
あいつが考えることなんて簡単できっとしょうもないこと考えて俺のプリンのカラメルを焦がしたんだ。
あいつと俺の生きる時間は違う。俺はもう誕生日なんて祝わなくてたってよかった、これから何度だってくる誕生日をあいつと過ごすと決めていたから。毎回何かしてたら大変だろうからと。だが、名前は一回の誕生日に縋るかのように誕生日を大切にする。別に大切にすることは悪いことじゃないが、あいつはどうにも考えすぎている。
「なあ、プリンまだ?」
「まだ冷えてないよ」
「がんばれ冷蔵庫」
「がんばれ〜」
今だっていつもと違う顔をして、考えていないふりをしてる。そんなに考える必要のないことを。
「冷えたぐらいに起こして」
「ん、分かった」
俺は考えるのを放棄して名前の膝で名前に少し染みついたカラメルの匂いを感じながら目を閉じた。
「おいしい?」
「うまい」
「よかった」
一目眠りした葛葉を起こしてプリンを目の前に置けば、寝起きながらも美味しそうに食べてくれた。焦がしてしまったカラメルを入れるわけには行かないので、新しく作って葛葉の好みの量入れた。
「カラメルうまい」
「ほんと?」
「焦げてないからうまい」
「流石に焦げたのは入れないよ」
そういうと葛葉はスプーンから手を放し、顔をこちらに向け鼻をスンスンする。
「なに?」
「今日、お前めっちゃカラメルの匂いする」
「えっ!」
「焦がしたのが染みついてる」
「臭い?」
「別に、俺は好き」
「そっか」
なんだかこうして他愛もない会話をしていると、他がどうでもよくなって来る。
「ねぇ、葛葉」
「んあ?」
「いつか私のこと、吸血鬼にしてくれる?」
無意識のうちに口から出た言葉に驚く。言うつもりなんてさらさらなっかたから。
「はァ〜〜??」
「あ、いや」
「なに当たり前のこと言ってんだ」
「は…」
「なんだよ覚悟できてんなら早く言えよ、今からでも、あ待てよお前の誕生日とかの方が雰囲気あるよな、そうだ今度の誕生日な」
「ちょ、ちょっと待って!!!」
「お、おう」
葛葉は元からその気だった…?
「いつから…」
「一緒に住み始めたぐらいから、てかお前いつも余計な事考えてただろ」
「余計なことって」
「俺が一緒に居るって決めたんだ、ずっといるに決まってるだろ」
そんなこと思っているなんて思ってもみなかった。
「ずっと、ずっと、葛葉の誕生日祝える?」
「おお、ずっと」
「私の誕生日祝ってくれる?」
「めんどいけどおめでとうは言ってやるよ」
「やったあ」
考えこむ必要なんてなかった。葛葉の中で答えは出ていた。
葛葉の言う通り余計なことだったかもしれない。
「ねえ、葛葉」
「ん」
「誕生日おめでとう」
「おう」
口の中でほんのりカラメルの味がした。