「お兄さん、イケメンだねちょっと私とお話しない?」
「えっ、え?」
真夜中のコンビニ、やる気のない店員しかいないこの時間、この場所で突然話しかけてきた女。
「あ、でもこんな時間だからダメかぁ」
「えっ、と?ァの?」
「仕方ない…とりあえずこの名刺あげるから、連絡して!」
「はぃ?」
マシンガンのように喋るその女は俺の顔をキラキラした目で見る。連絡しろって圧か?受け取らないと帰れない気がして、仕方なくその名刺を貰う。
「あ!あと、そのかごの中身買ってあげる」
「え?」
「貸して?」
そう言うとその女はお菓子やカップラーメンが入ったカゴをぶんどり、レジへ向かった。
「えっ!?いや、なにして」
「突然話しかけて、名刺まで渡して連絡しろなんて言っちゃってごめんね〜?お詫びお詫び」
「はぁ…?」
なんだこの女。意味わかんねぇ…さっきから人の話は聞かねぇし、奢るとか言い始めるし…。
しかも楽しそうに奢ってるのが謎すぎる。
「他にいる物ない?」
「ぇ…ない、です」
「そっか」
会計が済むと袋を俺に渡してくる。本当に奢ってもらった。金持ちか?変なやつなのか?
「それじゃあ、気をつけて帰ってね、連絡待ってるから」
「……ゥス」
連絡する気は全く無いが、ここで返事をしとかないといけないことくらい、俺でわかる。
そこで俺は女と別れ、そそくさと家路に着いた。
「あの女は一体なんだったんだ……」
家に帰ってからどっと疲れが出た。普段限られた人間としか会話しないような人間…吸血鬼が、初めましての、それもマシンガントークぶちかますような人間とのコミュニケーションで疲れないわけが無い。
「あ゙〜普通夜中って誰も居ないだろ……」
もう今日は疲れた、適当に寝た方がいいかもしれない。
「…その前に一応名刺見とくか」
連絡はしないが、名刺を持っているならどこかに務めていたり、ワンチャン会社の社長とか有り得るかもしれない…いや、ないか。世の中の社長ってもっと落ち着きがあるはずだ。
「え〜っと、代表取締役社長…苗字 名前……は?社長……?あの女が?…世も末か?」
人間いくら多様性って言っても限度があるだろ……俺の知ってる社長はもうちょいちゃんとしてるぞ……。
「…まぁ、社長?もいいけど俺が求めてんのは石油王だからなぁ…石油王だったらこのナンパにのってやったけど」
結局連絡はしなかったが、名刺は捨てなかった。
「あ〜!!いた!」
数日後夜中のコンビニ前で騒ぐ女が居た。
「え゙」
「連絡してって言ったのに」
「あ゙〜」
この空気はやばい、今ここで連絡先を交換させられるかもしれない。
「まぁ、いいよ無理は言わない」
「ぇ」
意外と引き下がるのが早かった。『ケータイ出して!』とか言われるかと思っていたから、びっくりだ。
「まぁ、とりあえず何買うの?奢ってあげる」
「え…この前も」
「いいの、いいの!お金は持ってるから」
おもむろに財布を取り出して見せびらかす。たしかに高そうな財布だし、社長らしいかもしれない。
「社長さん、でしたっけ…」
「そう、名刺は見てくれたんだ?」
「い、一応」
「ありがと〜」
見たのに連絡しなかったの?とか言われるかと思った。案外さっぱりしてるのか?
あと、さっきからニコニコしすぎじゃね……?奢るの楽しいの?
「これだけでいいの?」
「ぁ、はい」
「ん、わかった」
会計の途中、だめだとわかってはいたが、財布を覗き見た。そこにはカードが沢山入っていて、ブラックだったり、たぶんすげぇカードがいっぱいあった。
「ぁの、苗字さんてどんな仕事のしてるんすか」
会社名で会社の仕事の内容なんて分かりゃしない、株式会社の株がなんなのかもやかりゃしないやつが聞いても分からないだろうが、なんとなくここまで金持ちそうな人がなにをやってるのか気になった。
「わたし?あ〜石油とかでお金稼いでるよ、いわゆる、石油王ってやつ?」
「えっ」
石油王。その言葉を聞いて考えるよりも先に脊髄反射で言葉が出た。
「連絡先、交換…しませ」
「してくれるの!?」
「はぃ…」
「やった、ありがとう!」
久しぶりに追加される連絡先、とりあえず名前は石油王の女でいいか。