理想郷


叶わないということが



いつも覚えているのは私だけだった。

何度も何度も幾度となく訪れる転生にはもう慣れていた。そして記憶を持っているのは私だけで彼は何一つ知らない。そんなの当たり前だ、だって関わりなんてほぼ無いに等しい。
彼が主役の物語の脇役に過ぎない私は、彼にただ想いを何度も寄せるだけの存在。それも私だけではない、何人も同じ脇役がいる。
この気持ちは本当なのだろうか?私という存在には自我があるのだろうか。そんな疑問ももう考え飽きたところだ。
毎度、もう辞めようと思った。彼が私に好意を持つことも名前を知ることも無いのに。でも繰り返される転生の中で毎回一言だけ言葉を交わす。彼が落とした持ち物を広い、私はそれを彼に渡す。

「これ落としましたよ」
「あ、すみませんありがとうございます」
「いいえ、大丈夫ですよ」

たったそれだけの会話。でも私はこの会話のせいでいつも諦めることができなくなる。彼を想うことをやめられないのだ。
叶わないということを理解しながらも叶わない恋と繰り返される絶望に浸った。



今回の転生は特殊だった気がする。彼はアイドルのような立場だった。私は彼が所属する事務所?の近くにある花屋さんの店員。
今回も特に変わりなく、私の人生の一大イベントは訪れた。彼はキーホルダーを私の目の前に落とした、今回はこれが私の届ける物らしい。

「これ落としましたよ」
「あ、すみませんありがとうございます」
「いいえ、大丈夫ですよ」

いつものように拾い上げ、いつものように話しかける。
そうすると、いつものニコッとした笑顔を私に向けたかと思えば一瞬にして表情が変わった。
こんなこと初めてだった。今まで変化があったのは落とす物の種類だけで表情なんて変わることがなかった。私の顔を見て考えて止まっている彼。
初めてのパターンにどうすればいいのかわからなくなって、とりあえずこの沈黙を終わらせなければと言葉を発しようとした時、それは彼によって遮られた。


「何処かでお会いしたことありませんか?」



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