理想郷


ねぇ、きょうそさま



ひどい人生を送ってきた。仕事も家も何もかもが嫌になった。そんな時私の手を差し伸べて下さったのが刀也様。虚空教に出会ってから私は毎日が充実してここが私の居場所だったんだとわかり、刀也様のおかげで自分を取り戻すことができた。そんな私を友人たちは理解してくれなかった。『やめたほうがいいよ』『騙されてる』そんな失礼なことばかりいうから私はその人たちとは会わなくなった。そう私には刀也様がいればそれで良い。
「刀也様」
「あぁ、今日も来たんですね」
「もちろん」
「そのネックレスも似合ってますね」
「本当ですか?嬉しいです」
 刀也様は私に絶対教祖様と呼ばせてくれない。それは何度聞いても答えてくれないかったけど他の信者は誰も刀也様と呼んでいなかった、そこで私は小さな優越感に浸る。
「あなたは僕の特別ですよ」
「刀也様…」
「だからちゃんと付いてきてくださいね」
「はい、刀也様」
 大好きな大好きな剣持刀也様の特別。他の信徒には与えられないモノを沢山いただいている、そう私は刀也様の特別だから。


 毎日見ていた。電車の中で疲れた顔をしてどうにかなりそうな彼女を毎日毎日見ていた。そして手を差し伸べた。僕が彼女を救ってあげるしかないとそう思って。弱り切った彼女は案の定その手を取り僕の元に来た。あぁ、この手に彼女を収めることができたのだ。彼女には特別を与えなくちゃいけない。僕の元で、生きるという特別を。そこからは早かった。僕の特別は彼女にとっても特別でどんどん僕に歩み寄ってくれた、僕は彼女に教祖様と呼ばせない事にしていた。だって、剣持刀也は彼女のモノだから。”教祖様”はみんなの物だけど、僕は彼女のモノ。彼女は虚空教の教祖を信仰してるわけではない、彼女は僕を信仰して愛している。僕のひざ元で跪いている彼女を起こし膝に座らせる。そして問う。
「僕は誰でしょうか」
「けんもちとうやさまです」
「そう、よくできました」
 彼女は僕が僕であるための楔。僕が存在する理由。穢れのない僕の教祖様で、最愛の人。
「僕の特別は貴方だけ」
「私もです」
「僕と一緒に生きてください」
「もちろん」
 いつ貴方の薬指に僕よりも重い楔をつけようか、いつ貴方を僕の一部にしようか、そう考えている間に教会での夜は更けていった。




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