理想郷


そしたら君と



毎朝、電車で絶対に隣に座る女子がいる。向こうが喋りかけてきて喋るようになって、連絡先も交換した。いつのまにかそういう感じに思い始めたけど高校違うし、発展することも無かった。そして今日文化祭に誘った。まじで何やってんだって思ったけど勢いで誘ってOKが出てしまった。
「葛葉誰か誘ったの?」
「○高の女子」
「え?」
「えっ」
「まじですか?」
「ずは〜!!」
「うわ〜」
「まじか〜」
その場にいた全員が驚いた顔をして俺を見る。俺だって驚いてるわOK貰えたことも自分が誘ったことも。それにしたってなんか失礼だろ。
「ずはが、女の子を」
「誘った??」
「意外だね」
「誘ったらOK貰った」
「ライブすることも言ったの?」
「言った」
「チケット渡した?」
「渡した」
「えらいぞ」
「おかんかよ」
文化祭でやるライブのメンバーにプラスで司会のイブラヒムが心配そうな顔になる。なんだよその顔腹立つな。特に剣持煽り顔過ぎて殴りたくなる、この部屋から追い出せ。
「絶対いいライブにしましょうね」
「いっぱいファンサしてあげて」
「ばーんってするんだぞ!」
「舞台呼んで告白する?」
「しねぇよ!そんな所で出来るか!!」
「ここを抜け出そ〜で抜け出しちゃいなよ!」
そう言うと段々みんなの顔がニマニマしたキモイ顔になる、あプレミしたなこれ。玩具になる。
「そっか〜そこではできないのかぁ」
「じゃあ別のところでするのか〜!」
「好きなんだ〜!」
「うぜぇ〜まじでうぜぇ」
「そうかそうか、頑張ろうなライブ」
相変わらずうざいメンバーに笑いながら腹パンとかカマしながら文化祭のステージの練習をした。


その日が来た。相当緊張して、1曲目から振りとか間違えたし、何処に居るかってめっちゃ探した。所謂ファンサみたいなのしようかと思ったけどさすがにそれはキショいって思われたら嫌だからしなかった。
「次で最後の曲です」
そういうと会場からは「えぇ〜!」と惜しむ声が聞こえた。沢山やりたい気持ちもあるけど、割と疲れた、がち。
「世界を変えさせておくれよ」
みんなで曲名を叫べばまた会場が歓喜に変わる。汗をかいてペンラを振っている観客が見る。ただのバンドやアーティストの真似事かもしれないけど、それを見るのがだいぶ気持ちいい。そして目を向けた先には楽しそうにノってくれているアイツがいた。そっちに向かってもはや歌ではなく叫びなんじゃないかってぐらい歌う。
汗がダラダラと流れる、いつも引きこもってるやつにはだいぶきついし、膝も限界だし極めつけは歌ってたら剣持とかがニヤニヤしながら見てくること、だるい。でもくそ楽しい。
「いかなくていいの?」
「は?」
ぜぇぜぇ言いながら自分じゃないパートのところで走り回ってたら耳打ちされた。
「今ならいけるって」
そう言って叶はあっちこっち走り始めた。そういえば「ここを抜け出そう〜で抜け出しちゃいなよ」とか言われた気がする。いや無理だろ。
"恋ならば今すぐにしたい!今年は何かとはっちゃけたい!"
「君を悩ます闇に明かりを灯して僕とここを抜け出そう」
背中がドンッと押される後ろを見ればふわっちや剣持が早く行けよって顔をして、加賀美さんはウインクなんかカマしてこっちを見ていた。あぁ、もう行けばいいんだろ行けば、これで振られたら全部みんなのせいにしてやる。
舞台を降りて、アイツのいる所へ人をかき分けて走る。
「こっち!!」
そう言って手を掴んでまた人をかき分けて走る。なんか色々聞こえてくるけど全部無視、全部後。さっきまで舞台に居たからもう足腰がやばい、小鹿かなんかになる、それでも走って走って人気のない所に向かった。お互い息が上がってどっちの呼吸の音か分からなくなって、人気のない体育倉庫裏に着いた。
「はぁ…はぁ」
「なに…どう、したの…ライブ抜け出していいの」
「ちょ、っとまって息が…」
「う、うん…」
色んな意味で呼吸を整える、今更これでいや何も無いなんて言えないし、腹を括るしかない。それがいい。
「あの〜その〜っ…あ〜」
「ゆっくりでいいよ」
「ん…」
「秋なのに暑いね」
「そうだな…」
「世界を変えさせておくれよ、すっごくいいね元気な曲大好きだよ」
「前にもそんなこと言ってたな」
前にどんな曲が好きかって聞いたら「元気な曲」って抽象的な答えが返ってきて笑った。だから加賀美さんがこれ出した時いいなって思って賛成した。こいつが喜ぶかもな〜って思って。本当に秋なのに夏みたいに暑い。心做しかセミも鳴いてる気がする。ここだけ常夏か。額に滲む汗を拭いながらシャツをパタパタして風を送り込む。
「私ね、葛葉くんが何言いたいか分かるよ」
「は?」
「抜け出して、こんな人気のないところに来たならすることひとつでしょ」
「いや…その…」
「やっぱり早く聞きたいなぁ」
「お前性格悪!」
「怒んないでよ」
また深呼吸をして、何回も何回も落ち着かせる。そして言葉を出す。口から出た言葉がなんなのか脳が理解しない、俺本当に今告白の言葉言った?なんて言った?違うこと言ったかもしれない、やべぇプレミかました。
ふんわりと何かが香った。男子校では香ることの無い脳をバグらせるようか痺れる匂い。それと同時に頬に知らない感触が伝わる。
「はい、よろこんで」
「は」
「ついでにキスがしたいってお願いも叶えてあげたよ」
そう言われてやっと、頬の感触がこいつからのキスだったんだと理解した。



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