ホグワーツに入学して初めて仲良くなったのはアレクサンドル・ラグーザという男子だった。当初日本から来たばかりだった私はイギリスの純血の一族とかそう言うのは知らなかったから特急列車で普通に話しかけたら変な顔をされた、聞けばあまりいい噂がない一族らしい。自分で説明させたのは難儀だったなと今では思う。
組み分け帽子は私たち二人をスリザリンに分けた。かの有名なハリーポッターはスリザリンを嫌がっていたけど、私は喋る相手がいるのであればどこでもよかった。一応日本の純血の一族ではあったからかスリザリンの風潮に咎められる事は無く、東洋人が珍しかったのか割と友達は出来たが1番喋るのは彼だった。そこから3年経ちホグワーツでトライウィザードトーナメントが開催されている。ホグワーツの問題は山積みのようだけれども。
「あれ、本当にハリーポッターが入れたと思う?」
「誰か別の奴が入れたんだろ」
「やっぱそうだよね」
「校長の魔法破れるやつとかいねぇし」
「確かに〜」
それこそウィーズリーの双子が魔法薬を使って誤魔化していたが、ダンブルドアの魔法の方が遥かに上で浦島太郎みたいになっていた、面白かったのでそれはそれでいいけど。
「面倒事には巻き込まれたくないね」
「スリザリンになんて関わらないだろ」
「それもそうか」
マルフォイがずーっとハリーポッターに対して何がするからそもそもスリザリン生になんて話しかけないか。別にスリザリンは悪い所ではないんだけど、まぁ凝り固まった思想はめんどくさい。
「おい」
「ん?」
「呼ばれてるぞ」
声のする方を見ると同じ授業を取っている友人たちが私のことを呼んでいた。
「名前、授業遅れるわよ」
「あ、ごめん今行く」
丁度葛葉にも迎えが来たのでそこで別れた。
「よくラグーザと関われるわよね」
「葛葉はそんな変な人じゃないと思うけど」
「その愛称で呼べるのも貴方くらいよ」
「う〜ん」
「そもそもラグーザ家って人間じゃないとか聞くけど、なにか知らないの?あんなに仲良いじゃない」
「そこら辺の話はあんまりしないかな」
一部では人間じゃないとか、なんとか言われているらしいが真偽の程ははわからない。魔法界なんだからそれぐらい居てもおかしくないと思うけど。去年、ルーピン教授が人狼だったって広まった事もありみんなはその話に一層興味を持ったようで時々こうやって聞かれる、本当に知らない。
「ねぇ、それより名前はもうドレスコード決めた?」
「あぁ〜トーナメントのやつ?まだ決めてない」
「カタログが届いたから一緒に決めましょうよ」
「うん、そうする」
パーティはまだまだ先だがみんなはそれに向けて色々な準備をしていた、とは言っても本場のパーティが初めてだから何をすればいいとかよくわからない、結局友達に流され決めることになった。
「これとか似合いそうね」
「露出度高すぎじゃない?」
「イギリスはこんなものよ」
「文化の違いか…」
カタログに載っているドレスはどれも割と露出が多くてびっくりする。私、なんならスネイプ教授ぐらい露出が無いのでもいいんだけど。
「あ、これとか少ないわよ」
「ホントだ」
ロングのそこまで露出が無い、いい感じのドレスを見つけて、とりあえずそれにした。だけどその前に踊れるかが心配ではある。
「マクゴナガル教授のダンスレッスン行きなさいよ」
「そうだね…」
「あと、相手も決めて」
「あ〜…」
「どうせラグーザよ」
「決まったわけでは…」
その確率が高いのは確かだけどそこまで……まずサボって行かない可能性が高いと言うか…。
「心配しなくても彼のこと誘う女子は居ないわよ」
「ひどすぎ」
マクゴナガル教授のダンスレッスンはロン・ウィーズリーが可哀想だった。談話室に戻ると葛葉しかそこには居なかった。
「あれ、他の人たちは?」
「なんかどっかいった」
「へ〜」
「マクゴナガルのダンスレッスンどうだった?」
「ロン・ウィーズリーが可哀想だった」
「いつでもそうじゃね?ナメクジ自分でくらったり」
「そんなことあったね」
「パーティていつだっけ」
「再来週の19時から」
「ふーん」
いつも通り興味無さそうにソファで寛いでいる。テーブルの上にあるチェスが葛葉が負けたんだろうなって形になっている。
「叶くんとやったの?」
「そう、負けた」
「あらら」
「お前チェス出来たっけ」
「普通ぐらい」
「1戦やっぞ」
「はいはい」
毎回思うけどこの魔法使いのチェスって野蛮だよなぁ、負けたら駒が破壊されるって。ただ動くだけじゃダメだったのかな。
「あのさ」
「ん?」
「再来週の19時、談話室の前集合な」
「え」
動揺して動かすつもりの無かった駒を動かしてしまった。そして呆気なく負けてしまった。
「えっ、今なんて?」
「1回で聞けよぉ〜」
「いや聞いてたけど」
「もう相手いた?」
「いないけど」
「なら決定」
「はい…」
こうなる事は分かっていたけど誘い方があたかも一緒に行くのが当たり前かのように言うものだから驚いてしまう。本人はただただチェスを楽しんでいた。
「誘われたら断れよ」
「流石に相手がいるのに受けたりしないって」
「それもそうか」
相手が決まったことには変わりないので、パーティ前にあたふたして相手を探す必要は無くなった。てっきりサボると思ったけど行くらしい。
「サボるかと思った」
「スネイプがうるさそうだから行く」
「あ〜」
確かにスネイプ教授は今年何故かずっとイライラしてて、スリザリン生にも少し厳しくなっていた。もちろんハリーポッターへの当たり方は変わらずだけど。
「まぁ、とりあえず部屋帰って寝るわ」
「おやすみ」
結局この日は1回も葛葉に勝てなかった。
「レイブンクローの男子が貴方に用があるんですって」
普段あまり話さないパンジーが話しかけてきたと思ったらまさかのお呼び出しで、言われた通りに談話室の外に出たら、何度か図書館で話しかけられた気がするレイブンクローの5年生だった。
「えっと、何でしょうか」
「あ、あの、ダンスパーティー何だけど、相手が居なかったら僕とどうかな」
「あ〜…ごめんなさい、もう相手が決まっていて」
「そ、そうか、すまないねいきなり呼び出したりして、この事は忘れて」
「こちらこそごめんなさい」
「いいんだ、じゃあ僕は授業があるから」
そういって名前も覚えていないレイブンクロー生は足早に地下から出ていった。最後らへんなんか怯えてたけど、まぁスリザリン地下牢だから上のレイブンクローからすると怖いか。
「名前」
「うわっ」
「うるさ」
「びっくりした、いきなり現れないで」
「さっきから後ろいた」
「え」
「次授業だろ行くぞ」
「まって、教科書談話室に置きっぱなし」
「ん」
「あ、ありがとう」
普段私の分の教科書とか持ってきてくれないのに、なんで今日に限って…?というか、さっきから後ろにいたって事は、あのレイブンクロー生は葛葉に怯えてたんじゃ…?
「遅れる」
「わ、ちょっと!」
遅刻しそうになっても急がない癖に何故か今日に限っては私の腕を引っ張ってでも授業に間に合いたいらしい。
「そんなに闇の魔術に対する防衛術好きだっけ」
「いや」
「えぇ…」
手首を掴まれそのまま教室に向かう、途中グリフィンドールの"勇敢"な3人組に変な目で見られたが引っ張っている本人は気にしていないらしい。結果そのまま着いて、なんとも言えない雰囲気を醸し出すムーディ教授の授業を受けて、いつも通り図書館の端っこの誰もいない区画で私は課題、葛葉は課題をやりながら寝た。
ある程度課題が終わったので葛葉を起こす、図書館なのであまり声を出しては起こせないから全然起きなくて毎回困る。
「おきて」
「ん…」
「そろそろ寮に戻ろう」
「あぁ〜…」
さっきとは変わって、私が葛葉の腕を引っ張って図書館から出る。寮に戻って葛葉は寝足りなかったらしくそのまま寝室へと戻っていた。丁度談話室に友人がやってきたて呆れた顔で言う。
「あんたらそれで付き合ってないんでしょ?」
「付き合うも何も…」
「最初の頃は、Ms.苗字はラグーザに脅されてるとか言われてたわよ」
「言われてたね…」
「そろそろいいんじゃないの」
「そういうのじゃないって」
きっとそういうのじゃないから、考えないようにするのが利口だとずっと思っている。そもそも考えるのが苦手だし。
「日本人はお淑やかって本当ね」
「人それぞれだよ」
ダンスパーティーの日が来た。この人ために女子はみんな化粧を練習して頑張っていた。ダームストラングとボーバトン、そしてホグワーツ。3つの学校がここにいる今、女子も男子もこの時を逃すまいと奮闘している。
私は前に決めた露出の少なかったドレスを纏って、談話室の前に向かった。そこにはもう彼がいた、でも何だか雰囲気が違う、だって髪の毛が伸びてて、ドレスコードもちゃんとしてる。いやそれは当たり前だけど。やっぱりどこか雰囲気が違う。
「おせ〜」
「ご、ごめん」
「ほらさっさと行くぞ」
この前とは違う。ちゃんとエスコートしてもらってパーティ会場まで行く。いつもと違う感じにどうも慣れない。そわそわする。
会場に着いたら、それぞれの学校の代表選手が最初に踊っているのを見る。終始興味が無さそうにしていたが、いざ皆が踊る時になると、そっと手を差し伸べてきて、リードしてくれた。いつもの葛葉じゃない。きっとこれがアレクサンドル・ラグーザなんだろうな。私があまり知らない彼。
その後魔法界で有名なバンドのライブをそれなりに楽しんで、夜風に当たろうと適当に2人で会場から出て、廊下を歩く。
「ダンスパーティーってこんなに楽しいんだね」
「めんどくさいのもあるけどな」
「確かに大変そう」
「日本には無いんだっけか」
「う〜ん…踊ったりはあんまりしないかも」
「ふ〜ん」
慣れてるんだろうなと感じられるエスコートに心が痛まないわけではない。そういうことは考えないようにしているといっても、感じることはある。だから仕方がない。
火照った頬に夜風が心地よい。普段であれば寒すぎるけれども、今日だけはそう感じなかった。
「名前」
「ん?」
「上」
「うえ?」
言われた通り上を見ると、そこにはヤドリギが生えていた。あぁ、そういうことか。
何も言わずに目を閉じる。ヤドリギの下にいるならそうするしかない。ふにっとした感覚を唇に感じる。角度を変え、互いに確かめ合う。短い、ほんの数十秒だったはずなのに、それが長く長く感じられて、人が来るかもしれないのに、それすらも考えられなかった。
「っ…」
「…会場戻るぞ〜」
「うん…」
ヤドリギの下ではそうすることがルールみたいなものだから。そういう事だと言い聞かせて、何事も無かったかのように、会場に戻った。
あれから前より距離感が近い感じがする。友人からはやっとくっ付いたのね、と言われたけど違う。くっ付いた覚えはない。拒否する理由も無いのでもこうなっているだけ。でも日常は変わらなくて、いつも通り図書館で課題をやっている。別の本を探さないと、と思い席を立つと近くにハリーポッターとハーマイオニーグレンジャーが居てこちらを見ていた、いたたまれなくなって話しかける。
「あの、何か…?」
「…あのさ、君たしか日本の出身だよね」
「そう…だけど、それがどうかした?」
「日本にはカッパって魔法動物とかが居るって教科書で見たんだけど」
「確かにいるけど」
「なにか、水中で呼吸する術とか日本にあったりしない?」
「水中で呼吸?」
「次のトーナメントの課題が水中なんだ、それで何かヒントが無いかと…その日本には特有の"おまじない"とかあるって聞いたから」
「日本は"陰陽師"っていう特殊なものがあるんでしょ、本で読んだわ」
「あ、あぁ…それはえっとだいぶ昔の話だからなんとも…」
まさか次の課題のことで日本について聞かれるとは思わなかった。でもカッパは独自に呼吸しているし、そういう術も聞いたことがない。
「"おまじない"は効果が現れるのにだいぶ時間がかかるからオススメしない…やっぱり魔法薬とか水中呼吸の魔法とかが良いと思うけど」
「やっぱりそうか…ごめんいきなり話かけて」
「あ、いや大丈夫」
スリザリンだからたいそう話しかけづらかっただろうけど、まぁ彼も選手だから手段は選べないか。
「あ、あと」
「なに?」
「君って…その、ラグーザと付き合ってるの?」
「ハリー!」
「あ〜…」
気まずそうにハリーポッターがそう言うとハーマイオニーグレンジャーはなんて事聞いてるのよって感じで怒っている。
「さぁね」
両手を上にあげて首を傾げる。そして後ろで呑気に課題を下敷きにしながら寝ている葛葉の方をみて、苦笑いする。
「……ハリー行きましょう」
「あ、うん、ごめんじゃあもう行くよ」
「そう、トーナメントがんばって」
「あ、ありがとう」
椅子に座って葛葉の方を見る。本当に呑気に寝ていてちょっと腹が立つ。銀色がかったサラサラの髪を手ですく。どうせなら長い髪の時にもすればよかった。
「ん…」
「あ、起きた?」
「ぉ〜」
「寮に帰ろう」
「ん〜」
二度寝しそうな葛葉をがんばって起こして、私たちは手を繋いで図書館を出た。