日常編 * 大嫌いな少年 *


 あれから比較的に穏やかな日常を過ごして放課後を迎える。
 今のアルドは一人暮らしだから先に帰っている。
 必然的に一人である私は普通に帰ろうとした。

「君、その髪は校則違反だよ」

 聞こえたのは抑揚の欠ける平淡な声。振り向けば漆黒の学ランを羽織った黒髪の美少年がいた。

 ……また雲雀恭弥だ。
 あまり関わりたくないなーと思っていると、雲雀恭弥は私を見た瞬間驚き、目を細める。

「! ……へえ、君、1年だったのか」

 近づいたと思えば、私の髪に触れた。
 うわ、なんかゾワッとした。

「脱色したの?」
「……生まれつきです。それより放してくれませんか?」
「どうして」
「他人に触られるのは慣れてないので」

 他人に触られるとゾワッとするから嫌なんだよね。あと、背後に立たれるとどうしても悪寒がする。潔癖症ってわけじゃないけど、なぜかね。
 僅かに顔をしかめて言うと、雲雀恭弥は一度瞬きして僅かに口角を上げた。

「僕を見ても普通でいられるなんて珍しいね」
「それはどうも」

 踵を返そうとすると、髪を引かれて立ち止まる。
 ……うん、イラッとした。

「……まだ何か?」
「君、風紀委員に入りなよ」

 ……何のフラグですかそれは。
 思わず顔をしかめてしまったけど、どうにでもなれ。

「やだ」
「どうして」
「めんどくさいから。それに家事があるので」

 家のことはしっかりしたいから、面倒事は避けたい。
 いくら腕っぷしがあっても厄介事に首を突っ込みたくない。
 視線を逸らさず軽く睨んでいると、雲雀は面白そうに笑って髪ら手を放した。

「そう。なら、今は諦めよう。僕は雲雀恭弥。忘れたら咬み殺す」
「氷崎祈です。勧誘は全力で拒否しますから」

 負けじと言えば雲雀恭弥……もういいや、雲雀さんで。雲雀さんはフッと笑うと去っていった。
 本当に自由な人だなぁ。
 しみじみ思っていると、違う声がかかった。

「お、お前が氷崎か」

 溌溂とした明るい声がA組から聞こえた。
 教室から出てきたのは、1年生にしては長身の爽やかな少年、山本武だった。
 彼を見た途端、私は目を据わらせる。

「……あなた、誰?」
「山本武っていうんだ。お前、ツナの幼馴染なんだってな」

 綱吉から何を聞かされたのか知らないけど、あんなことがあったのに私に話しかけるなんて、どんな神経しているんだか。
 思わず溜息が出てしまったけど、こればかりは許したくないな。

「そう……あなたが綱吉を巻き込んだ子か」

 目を据わらせて苛立ちを滲ませば、山本は驚く。

「氷崎……?」
「気安く呼ばないでくれる? 反省していない能天気な子なんて嫌いだから」
「そりゃ言い過ぎじゃねーか?」
「じゃあ残される人達のことも考えたの? 親は? 友達は? 一人息子が死んで、大切な友達がいなくなって、どんな気持ちになるか考えたことあるの?」

 苦笑していた山本の表情が変わる。驚き、戸惑っている。
 私はこれだけで終わらせない。

「悩みを抱えていることに気づけなかったことに後悔する。特に親は相談に乗ってやれなかったことを一生引き摺って悲しむ。あなたはただ自分の才能に甘えて実力に驕っていただけでしょう。だから野球なら何でもできると思って、いざできなくなると逃げようとする。――私はそんな弱虫なんか嫌いだよ」

 図星を言いまくって、足早に立ち去った。
 言い過ぎだと思う。けど、これくらいしないと腹の虫は収まらなかった。




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