日常編 * 魅せる体育祭 *


 二学期に突入して、体育祭の日が近づいてきた。
 私はこういった“魅せる”競技は苦手だ。けど、種目を引き受けないといけなくなった。

「さあ! あと少しで体育祭だ!! 全員出たい種目を選べ!!」
「はい! 大玉転がし!」
「玉入れ!」

 次々と出場したい種目を選んでいく1年生から3年生までのC組の生徒達。
 なんていうか、熱い。いつも大人しい学級委員長まで盛り上がっているし。
 私は余り物にしようと思っていた。

 ……けど。

「氷崎さんって足速いよね」

 隣にいる女子生徒がそんなことを言った。
 確かに足は速い方だ。日々鍛えているから当然といえば当然かもしれないけど。

「じゃあ氷崎さんは女子100メートル走に決定!」
「えぇえええ!?」

 勝手に決められたー!!
 引き攣って絶叫してしまい、頭を抱える。

「じゃあ、オレも100メートル走にしようかな」
「だったら僕も」

 すると、アルドとティートも名乗り出た。
 そして二人は男子100メートル走でアンカーになった。

「あと最後、今年は借り物競争があります。これは障害物有りなので難しいと思いますが……1年の氷崎さんを推薦します!」

「「オオオオ!!」」


 また私か!! 何で私に振るの!?

 がっくりと肩を落として、仕方ないと腹を括るしかなかった。


◇  ◇  ◇



 とうとう体育祭の日がやってきた。
 私はテントの中で、男子100メートル走の応援していた。
 最後の方でティートが五人ほど、アンカーのアルドが最後の一人を追い抜かす。
 だけど、最後の一人はA組の山本武。負けず嫌いな彼は加速して、アルドと並ぶ。

《おおっと! A組とC組が並んだー! ――ゴール!!》

 なんと、同時にゴールテープを抜けた。
 二人並んでのゴールは初めてだったのか、二人揃って1位になった。
 これには周りも興奮して、戻ってきた二人を誉めちぎる。

「お疲れ様。はい」
「ありがと」

 スポーツ飲料を渡して、次の種目を確認する。
 次の種目は……。

《女子100メートル走に出場する選手は持ち場についてください》

 ……私の番だった。

 引き攣ってしまったけど、渋々持ち場についてアンカーの位置に立つ。
 A組とB組は陸上部の女の子達が揃っていた。

 ……これは、本気を出すしかない。

「位置について、よーい」

 ――パァン


 乾いた発砲音とともに始まった。
 どんどん走って、C組は現在6位中3位の状態。
 アンカーである私の番が来て、走り出す。

《おお! C組が追い上げてきた!》

 放送員、うるさい。

 軽く顔をしかめて、B組を追い抜かす。
 あと半分まで行った地点でA組を追い抜かし、余裕を持ってゴールテープを抜けた。
 これでC組の点数は現在2位になった。
 あとは借り物競争だ。最後の方だから少し休憩できる。
 テントに戻ると、アルドがスポーツ飲料を渡してくれた。

「お疲れ」
「すごいね、ダントツ1位だなんて」
「ありがとう」

 ティートが褒めてくれたので、笑顔でお礼を言う。

 ふと、視線を感じてA組の方を見る。
 A組の方では綱吉が不機嫌そうにこっちを見ていた。
 え、何で? 私、何かいけないことでもしたのかな?

 考え込みながら水を飲むと、次々と競技が過ぎていく。
 そして――

《障害物ありの借り物競争に出場する選手は持ち場についてください》

 とうとう私の番が来た。
 障害物は平均台、跳び箱、高跳びが各地点にあって、四分の三ほど走った地点に借り物のお題を書き込んだ紙を吊るした物がある。
 平均台は先に渡れた人、跳び箱は一番高く跳べた人の順番で高得点を貰える。高跳びのチャンスは一度。綺麗に飛べれば高得点。失敗すれば得点なし。
 厳しいけど、やるしかない。

 出場者は各クラス1人。つまり全員で3人。私の他に、陸上部の男子、新体操部の女子がいた。
 私を見た二人は、楽勝だ、というような自信たっぷりの笑みを浮かべた。

 うん、負かそう。

《位置について。よーい……》

 ――パァンッ

 ピストルの発砲音が鳴り響くと同時に走り出す。
 スタートダッシュは良好。二人より速く平均台を走って渡り切り、跳び箱へ向かう。
 四段、五段、六段のうち、私は3点取れる六段を飛び越えた。

《おおっと! C組の選手、陸上部と新体操部のホープを引き離しています! C組は1年生です!》

 余計なこと言わんでよろしい。

 眉を寄せて、次は高跳びにまっすぐ走る。
 高さは1メートル。それくらいなら飛び越えられる。
 チャンスは一度きり。一気に加速した私は勢いを殺さず背面跳びで越えた。
 マットに背中をつけず、綺麗に両足をついてマットから降りた。
 ゴール近くまで行くと、紙をぶら下げた台がある。その紙こそがお題だ。

 迷わず右端の紙を取ると……え、マジ? 死ねというのか?

 とんでもないことが載っていたけど、背に腹は代えられない。
 放送員の所に行ってマイクを借り、告げた。

「風紀委員長の学ラン、得点×5」

 しん、とBGM以外静まり返ったグラウンド。

 遠隔透視(クレヤボヤンス)で校内を視ると、参加していない不良をボコっていた。
 保健室の近くまで行けば、ちょうど不良を引きずっていた雲雀さんが私に気づいて立ち止まる。

「雲雀さん! 学ラン貸してください!」
「どうして」
「借り物競争で、雲雀さんの学ランがあったの」

 ピラっと見せれば、雲雀さんは目を据わらせる。

「君に貸して、僕にメリットはない」
「お礼にお菓子か何か作ってきます」

 食べ物で釣るなんて無理だと思うけど、試してみた。
 目を逸らさず待っていると、雲雀さんは肩にかけている学ランを私に投げ渡した。

「ハンバーグ作ってきて」
「! うん! ありがとう!」

 よかった! これで勝てる!

 満面の笑顔でお礼を言って、私はお題を係の人に見せてゴールした。
 結果、見事1位に輝いた。


 退場して、真っ先に雲雀さんに学ランを返してからテントに戻る。
 疲れたぁ、と息を吐き出すと、全員が私を凝視していた。

 ……え? な、何で?

「祈! 雲雀に何かされなかったか!?」
「え? あ、うん、大丈夫。ちょっと交渉しただけだから」
「交渉?」

 アルドが鬼気迫る顔で訊ねてきたから安心させるように答えると、ティートが復唱する。

「お礼に料理を作るって約束だから、心配しないで」

「「「…………」」」


 あっさり言うと、全員が目を丸くして固まった。

 今年の棒倒しはA組対BC連合で、言わずもがなBC連合が勝った。
 そして総合的に、C組が勝利を飾るのだった。

 後日、ハンバーグを学校で作って雲雀さんに渡せば、「おいしい」と評価してくれた。よっしゃ!




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