日常編 * 大切な誕生日 *
あと一週間で綱吉の誕生日が来る。
誕生日プレゼントは用意できたから、あとは誕生日が来るのを待つだけだ。
「あ、そういえば……」
今年の綱吉の誕生日、病院で過ごすんだっけ。
どうしよう……どんなタイミングで行けばいいのかな……。
……夕方にしよう。綱吉の友達が帰る頃だから、3時半に到着すれば間に合うかも。
ご愁傷様、と心の中で手を合わせて、ラッピングしたプレゼントを引き出しの中にしまった。
今日は日曜日で、凪と遊びに行く約束をしていた。
手頃な鞄に携帯電話と財布を入れて、電車で向かった。
凪に連絡を入れると、いつもの公園で待っていると言ってくれた。
10時半過ぎて黒曜の公園に行けば、秋服を着た凪がいた。
あの白猫と戯れていて、見ているだけで和む。
「凪、久しぶり」
「! うん」
白猫が膝から降りて、どこかに行く。
見送った凪は私のところに小走りで来た。
「どこに行くの?」
「ジュエリーショップとオルゴール店かな。オルゴール店だと凪も楽しめると思って」
鞄からパソコンで調べた地図を出して、黒曜の商店街へ向かった。
商店街の一角にある大きなジュエリーショップに入れば、多種多様なアクセサリーがあった。
ネックレス、ブレスレット、ピアス、イヤーカフ、ストラップなど。
初めて見る凪は興味津々で見渡していた。
「すごい……」
「うん。見て回ろうか」
凪をリードして、アクセサリーを見回る。
ふと、凪があるところで止まった。
よく見ると、そこに飾られた猫と、その猫を嵌め込めるプレートがあった。
値段は2000円。私の所持金を考えたら……買えるかな。
シルバーネックレスを取って、近くにいる店員さんに訊く。
「すみません。これってペアルックですか?」
「そうですよ。これに合うチェーンも見ますか?」
「はい、お願いします」
次に飾られたチェーンだけのコーナーに行って、微細なシルバーチェーンを見つけて買った。
「買ったの?」
「うん。はい、これ」
別々の包みに入れてもらうよう頼んでいたから、猫のネックレスが入ったものを渡す。
凪は驚いて受け取り、中を見て驚いた。
「え……いいの?」
「ん。ペアルックだからね。友達って証になるかなーって」
友達という証。そういうのに憧れていたんだ。
凪は猫のネックレスを取り、大事そうに握った。
「ありがと」
「どういたしまして」
嬉しそうに笑った凪。やっぱり笑顔が似合う。
ちょうどお昼の時間になったので、近くのしゃれたお店でパスタを食べた。
次に向かったのはオルゴール店。
知っている曲や知らない曲、珍しい形の箱や、おもちゃ型のオルゴールといろんな種類があった。
初めて見る私達は目を輝かせて眺め、最終的に小さくて安いオルゴールを買った。
「楽しかったね」
「うん。……!」
その時、凪の携帯電話から着信音が聞こえた。
メールだったみたいで、画面を見た凪は眉を下げた。
「……ごめん。そろそろ帰らなきゃ……」
「あ……わかった」
もう少し一緒にいたかったけど、凪の事情を考えると仕方ないよね。
「そうだ。凪の誕生日はいつ?」
「え。……12月5日」
携帯電話のカレンダーを見ると、その日は平日だった。
ちょっと残念。当日に遊びたかったけど……。
「平日……は、学校があるし……。じゃあその週の日曜日に遊ぼう。暇だったら、だけど……」
「! いいの?」
「うん、もちろん」
笑顔で頷けば、凪は頬を染めて嬉しそうに笑う。
「じゃあ、約束」
「ん、約束」
一緒に指切りして、公園で凪と別れた。
楽しかったぁ……! また凪と遊ぶ約束もできたー!
上機嫌で家に帰っている途中で携帯電話が鳴る。ディスプレイを見ると『沢田家』とあった。
《祈、今どこ?》
「あと5分で家に着くよ」
そう言うと、わかった、と言って通話が途切れた。
……何だったんだ?
首を捻って家に到着すると、玄関を開けた。
――パァーン
突然、パーティー用のクラッカーが鳴り響いた。
驚いて目を丸くしていると、綱吉が悪戯っぽく笑う。
「大成功。こんなに驚いた祈は久しぶりかな」
「……えーっと?」
どういうこと?
首を傾げて説明を待つ私に、綱吉は言った。
「誕生日おめでとう!」
……あ。今日、私の誕生日だった。
忘れていた自分がちょっと恥ずかしいけど、こういったサプライズをしてくれていたなんて……。
「ありがとう」
すごく嬉しくて、満面の笑みでお礼を言った。
その日の夕飯は楽しくて、食後に綱吉が用意してくれたケーキを食べるのだった。
◇ ◇ ◇ 一週間後の日曜日。
並盛中央病院に到着したのは3時半。
遠隔透視(クレヤボヤンス)で綱吉の病室を確認すると、綱吉以外誰もいなかった。
ほっとしたけど、途中で綱吉の友達が通り過ぎた。
あ、危なかった……! まだ関わりたくなかったから、すごくほっとした。
急いで病室に行って、扉をノックして――。
昨日、リボーンの誕生日だった。
ボンゴリアン・バースデーパーティーっていうヘンテコなものに付き合わされたせいで、病院で誕生日を迎える羽目になった。
毎年誕生日になると、祈の家で祝ってくれることになっていたのに……。
祈はたぶん、オレが入院していることを知らない。
祈抜きの誕生日は寂しくて、物足りなく感じる。
せっかく獄寺君や山本、ハル達が祝ってくれたのにな……。
まあ、ランボがケーキを踏んづけたせいでケーキ抜きになったけど。
重々しい溜息をついた時、病室の扉をノックする音が聞こえた。
誰だろう、と思うと……。
「綱吉、大丈夫?」
「祈!?」
なんと、祈が来てくれた。
病室に入った祈は眼鏡を外して、ベッドの横にあるパイプ椅子に座った。
「元気そうでよかったけど……どうして入院?」
「えっ、えっと……ちょっと複雑骨折して……」
どうやったら複雑骨折になるんだ。それを説明できないのが歯痒い。
祈は眉を下げて、オレの頭をそっと撫でた。
瞬間、体中が温かくなって、全身の痛みが少しずつ引いて行くのを感じた。
まさか、ヒーリング?
祈は超能力を持っている。その中の一つのヒーリングで、幼い頃から助けられた。
この温かな心地はいつも好きで、ほっと安心する。
「……はい。あと三日で完治するようにしたから。いきなり全快だとおかしがられるし」
「あ……ありがとう」
嬉しくてはにかめば、祈はほっとして笑顔になる。やっぱり祈の笑顔は癒されるな。
「これ、プレゼント」
そう言って持って来た箱から小さめのホールケーキを出した。
祈特性のフルーツケーキは、上に苺、中に桃や蜜柑、パイナップルがあるから好きなんだ。
「わ、うまそー」
「それと、これ」
鞄からラッピングした小さな袋を出した。
祈が開けて見せてくれると、それは綺麗なストラップ。オレンジと水色、透明のビーズでできたストラップ。その先端に王冠(クラウン)のシルバーアクセサリーがついていた。
まさか……これって……。
「手作り?」
「うん。ストーンビーズで作ったの」
祈は毎年手作りの何かをプレゼントする。中でもストーンビーズは一番お金をかけている。
前回はブレスレットだったけど、ただ繋いで輪を作った感じだった。
こんなカッコイイのをプレゼントしてくれるなんて……。
「すっげー嬉しい。ありがと、祈」
「うん」
お礼を言うと嬉しそうに笑う祈。
「誕生日おめでとう」
祈の祝いの言葉に、今年もいい誕生日になった。