謎めいた同級生

 昼休みが近づくと、運動場から酷い騒ぎが聞こえてきた。
 手製の弁当を食べている湊と雲雀は表情を険しくする。

 ちょうどその時、風紀副委員長の草壁哲矢が応接室に入った。

「失礼します」
「何の騒ぎ?」
「B組とC組の総大将が棒倒しに出場できなくなりました。どちらもA組の総大将が関与しているらしく……」

 それを聞いた湊は眉を顰める。

 A組の総大将は沢田綱吉だ。彼が不正をするわけがない。可能性とすれば、彼の家庭教師と彼の取り巻きだろう。
 重々しく溜息をつく湊に、雲雀は目を向ける。

「何か知っているようだね」
「……ああ。知人のはかりごとと、彼の取り巻きの愚行だろう。まったく、トラブル吸引体質にも程がある」

 嘆息してお茶を飲んだ湊は話を続ける。

「その知人は黒いスーツを着た赤ん坊。心当たり、あるだろう?」

 意味深く言って雲雀を見れば、彼は薄い笑みを浮かべていた。
 二学期が始まった週に、一度だけリボーンの策略で遭遇したのだ。
 只者ではないと本能的に感じ取った雲雀は、リボーンと戦う日を望んでいる。

 獰猛な笑みを浮かべた雲雀に戦慄した草壁は背筋を伸ばす。

「……行くのか?」
「あの赤ん坊と会えるならね」

 その発言に、今年の体育祭は波乱を呼ぶと草壁は思った。


 午後に行われる最後の競技、棒倒し。それを校舎付近で観戦していた湊は苦笑する。
 棒倒しから騎馬になったツナ達は、最終的に獄寺と了平の喧嘩で負けてしまった。
 雲雀は肩透かしになって興味を無くし、応接室に戻っていく。

 だが、湊は戻らなかった。

「『夢遊』」

 言霊で透明になった湊は乱闘の中を掻い潜り、ボロボロになったツナの手を掴む。

「ひぃっ!? って、和崎君!?」
「静かに」

 獄寺がダイナマイトを投げる。その爆発に呑まれかけたが、湊の機転で回避した。

「こっち」

 短く言って優しく引っ張る湊について行くと、ツナは違和感を覚えた。
 観客の前を通って校舎に向かっているのに、誰も二人に目を向けない。いや、気づかない。まるで見えていないような感じがする。

 不思議な感覚を持って、外から入れる扉から靴を脱いで保健室に入る。
 保険医はいないことに安堵とした湊は完備されているタオルを濡らし、ツナに渡す。

「これで拭いて。それが終わったら予備の体操服を着て」

 言われて気づく自分の姿。また下着一枚という恥ずかしい格好になっていた。
 ツナは慌てて土埃を拭いて着替えると、湊から体温計を受け取る。熱を測ると、朝より悪化していた。それを見た湊は表情を険しくして、保冷剤と解熱剤、スポーツ飲料を渡す。

「保険医に追い出されるまでベッドで休んでて」
「う、うん。ありがとう……って、和崎君。どうして体育祭に出なかったの?」

 体育祭が始まってから気になったことを訊ねると、湊は左腕につけている腕章を見せる。
 それを見て、ツナの頬が引き攣る。

「風紀委員になったから」
「えええー!!?」

 衝撃的すぎて叫んでしまうツナ。
 当然の反応に苦笑した湊は、ぽんっとツナの頭を撫でる。

「じゃあ、オレは戻る。時間が来るまでゆっくりして」
「ぁっ……待って!」

 ツナの頭から手を離した湊は踵を返す。それに焦ったツナは咄嗟に湊の手を掴んだ。
 驚いた湊が振り向く。だが、彼より驚いたのはツナだった。

 湊の手は驚くほど華奢で繊細だった。ツナよりも少し小さくて、指も細長く、まるで苦労を知らないような柔らかさがあった。
 しかも、湊は美少女といっていいくらいの女顔で、背は高いのに華奢。
 どう見ても男にしては違和感があった。

「……何だ?」

 この変声期を迎えた声がなければ、本当に女と間違えそうだ。
 顔を赤くして口を引き結んだツナは、そっとその手を放す。

「あの……オレ、和崎君と友達になりたいんだ」

 思い切って申し込むと、湊は目を見開く。

 友達。親しく関わることができる仲。
 湊は一般人との友達を作らないようにしている。それ以上にマフィアといったグレーゾーンの組織の関係者にも距離を置いていた。
 だというのに、少し関わった程度の沢田綱吉から友人になりたいと申し出された。

 ツナは世界最高峰のマフィアの次期10代目ボス。彼と関わると、きっと組織に引き込まれる。そして情をかけさせて利用されるだろう。
 一番危惧していたことが現実になってしまい、湊は混乱から後ろ足を引く。

「和崎君?」

 不安そうな顔をするツナに悪心はない。
 それでも――

「……オレは……なりたくない」

 声を絞り出して、拒絶する。

 恐怖しているのではない。ただ、動揺している。
 その原因を知らないツナは、今までにないくらい不安定になった湊に戸惑う。

「友人は……あの二人だけで十分だ。それ以外の友人なんて……いらない」

 ぐっと握りこぶしを作り、湊は外へ出ていった。
 残されたツナは拒絶されて傷ついたが、湊の反応が気になった。
 友人を作ることに抵抗感を持っているようだった。

 それに……。

「あの二人って……」

 誰だろう。


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bkm