001は危機一髪
「って会話してたのに、何で私はワイルドエリアにいのかな……?」
どうも、私です。ただいまワイルドエリア爆走中!何でだろうね本当!
いや理由はあるんだけども。
「お、おねえちゃ、ごめん……ぐすっ」
「よしよし、大丈夫だよ、ていうかごめんね今後ろからユキノオーが追いかけてきてるからはしるよ!!舌噛むから黙っててね!!」
少年を抱え、怒りでこちらをしつこく追いかけてくるユキノオーから必死でピカチュウと逃げる。なんでこんなことになってしまったんだ!って考えながら。
キルクスタウンで、ポケモンと一緒に入れる露天風呂で有名な宿の予約がとれたから、ノリノリでピカチュウと一泊して。
朝起きれば、ナツヤからブッカーさんがウクレレ修理に励んでくれたおかげでもう直ったと連絡が入り。ホテルでウクレレを受け取って、ナツヤのピチューと私のピカチュウのセッションを楽しんだ。最高に可愛かった。2匹ともすごく上手に曲が弾けるわけではないのだけど、あんなに笑顔で演奏しているのよ、涙止まらないわこんなの。
テンション高くなってもう一泊予約したよね。運良く空いていたようだったのでよかった。
え、今日の私とピカチュウめっちゃツイてない!?ってナックルシティまでタクシーを飛ばしたところが運の尽き。なぜナックルシティかというとただあんまり来ない街だからである。
ツーさんはここに住んでるんだけど、何故かナックルシティで遊ぶことは無い。
ナックルシティのバトルカフェ気になってたんだよね……。私はバトル出来ないけど、本当にカフェでバトルしているのかな。カフェ壊れない?
見てみたいな!ってなったんだよね。
ひゃ〜ナックルスタジアムでけ〜!!橋!橋あるよピカチュウ!!と年甲斐も無く大騒ぎしてすまんね……。でも呆れた顔をしていたピカチュウ、あなたもはしゃいでいたことを知っているからね私は。
なんてナックルシティをぐるぐる回って楽しんでいる時だった。幼い少年が、そっとワイルドエリアに繋がる階段を降りていくのを見たのは。
夕方近くだからか、私とピカチュウ以外に彼が入っていくのを見た人はいなさそうで。
「どうみてもワイルドエリアに入っていいトレーナーとかじゃなさそうだったよね……」
「ピィカ……」
「キャンプキングさんやリーグスタッフさんたちが止めるはずだと思うけど、気になるんだよね」
ワイルドエリアの危険性は小さな頃から耳にタコが出来るほど教えられる。
死人だって少なくないから。
昔はもっと酷くて、でも歴代チャンピオンたちやジムリーダー、最近ではマクロコスモス社の尽力もあり、マシにはなってきたようだけど。
ダンデくんも、仕事の合間によくワイルドエリアの見回りをすることがあると雑誌でも言っていたっけ。天候が変わりやすいワイルドエリアでは常に何が起こるか分からないから気をつけて欲しいとも言っていた。
ーちょっと見るだけ。あの少年がリーグスタッフさんとかに注意されていたりする姿を見たら、すぐキルクスタウンに戻ってピカチュウとお風呂入ろう。そうしよう。せっかく修理したウクレレ汚れたら嫌だしね。
そっとピカチュウと階段を進む。しかし、私が望んでいた風景がそこにはなく。
「なんで誰もいないの……?」
私とピカチュウを会わせてくれたリーグスタッフさんは入口付近には絶対彼等がいるからもし困ったことがあれば言ってくれと、そう言っていたのに。吹き付ける吹雪だけがそこにあった。
大急ぎでスマホを取り出し、SNSを取り出せば状況はすぐ分かった。ダイマックスしたポケモンがこの近くで暴れているのだ。しかもいくつかの場所で。新米トレーナーやらかし云々が書いてあったが、なるほど、1箇所ならまだしも何ヶ所でやらかしがあったらならリーグスタッフさんも保護に走らねばならないし、他のトレーナーも逃げたりしなくてはならない。
でも、ということは
「……さっきの子を注意する人がいない……?」
「た、たすけて!!」
私のつぶやきに答えるようにあがった悲鳴。目をやれば、少し離れたところにユキノオーに襲われかける先程の少年が尻もちをついていた。
「ピカチュウ!電気ショック!」
ピカチュウとここのユキノオーでは圧倒的なレベル差があるから、電気ショックはさほど効かない。これは少しだけでもユキノオーの意識を逸らすためのものだ。
思惑通り足元に放たれた電気ショックに気を取られ、動きを止めたユキノオー。人生でこれ以上出ないよってレベルの速さで走って少年を抱き上げユキノオーから逃げる。
そしてここに至るのだ。
もう何もかもタイミングが悪い。
助けてくれそうな人はいないし、吹雪のせいで私たちの体力はのろいも真っ青なレベルでがんがん削られていくし走りは遅くなるのに、ユキノオーはハチャメチャに元気。なんなら後ろからこおりのつぶてを放ってくる。やめろ死ぬ!!!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛やめて足元こおりのつぶてはやめてさっむ痛った!!!!!ピカチュウ無事ぃ!?」
ピカー!と吹雪で少し聞にくいものの、元気に応答する声が肩から聞こえてきて安心する。最初は一緒に走っていたのだが、攻撃を受けたらひとたまりもないので肩で踏ん張って貰っている。
が、こちとらワイルドエリアなんぞ危険の塊でしかないということをしか知らない一般人。体力だってさほど無いし、運動神経も良くない。
ここまで逃げ切れたのが奇跡と言っていい。
「いっ……!!」
石につまづき思わず転んでしまう。血は出てはいないようだが、お気に入りのタイツが破けた音がした。
咆哮をあげ、こちらに向かって再びこおりのつぶてを放つユキノオーが見えて。ピカチュウと少年を抱きかかえ庇う。こおりのつぶてに当たったら痛いのかなーー痛いんだろうな……。なんて思っていたときだった。
「リザードン、だいもんじだ!」
そこには、私の憧れ、ダンデくんその人が立っていた。相棒のリザードンとともに。
灼熱の炎が、こおりのつぶての勢いを押し切り、ユキノオーに届く。確かユキノオーはこおり·くさタイプだったから、こおりのつぶてや吹雪の影響で威力が少し落ちただいもんじでもそれなりのダメージだったのだろう、ぴゃっと飛び上がってスタコラサッサと逃げ出して行った。
「……よ、よかったあ……」
ちょっと拍子抜け。あんなにブチ切れて追いかけてきてたのに……。すぐ逃げてしまうなんて。
元とはいえ、さすがチャンピオンの座を長年守り続けたダンデくんとその相棒 リザードンといったところだろうか。ピカチュウがリザードンに会えた興奮を通り越して若干泣きながら溶けかけている。私のピカチュウはメタモンだった……?
くるん、とダンデくんが振り返りこちらを見つめてくる。目が大っきいしなんか煌めいてる……宝石?トパーズ?琥珀……??すき……。
「う、うわ〜ん!」
いきなり私の腕の中にいた少年が泣き出した。怖かったよね、大丈夫だよ、と私とピカチュウで慰める。
「ごめんなさいお姉ちゃん……ぐす。僕のせいで、お姉ちゃんもユキノオーに追いかけられて……」
「……ふむ。少年は、どうしてワイルドエリアに入ったんだ?」
ダンデくんが優しく問いかける。
「僕、いつも臆病だから、皆に弱虫って馬鹿にされて……。だから、ワイルドエリアでポケモンをゲットできたら、馬鹿にされないと思ったんだ……」
「少年のそれは無茶、と言うんだ。勇敢な行為だと褒めらるものじゃない。それは分かるか?」
「……うん」
すっと近付いてきたダンデくんが優しく少年の頭を撫でながら話す。
「分かったのなら、大丈夫!もう君はこんな無茶をしないし、この経験をバネにしていくことだって出来る!……勿論、反省していくことも大事だが!オレからの説教はここまでだ。君をご両親のもとへと送ろう!」
「うん、ありがとうダンデさん!」
……カァ〜!!いやこういう状況で言うのもなんですけどダンデくんめっちゃかっこいいね……。
少年を叱るだけでなく、励ますとは。
確かにワイルドエリアに特攻は無茶すぎるけどもね。
ダンデくんは両手を差し出してきた。片方の手は少年が立つのを助けるためだろう。ではもう片方は?
「君も、大丈夫だったか?」
あ〜!!私のために差し出してくださった右手ェ!!??
ひえ……。無理……。
触れない触ってもいいの……お願い教えてファンクラブのみんな……!!
断るのも失礼かもしれないし……!え、下心なんてありませんよ?手にさわれる……!?って喜んだりもしてません!
「ありがとう、ございます……」
ピカチュウを抱えたまま、ダンデくんに手を貸してもらう。
「!そのピカチュウ……」
「えっと、何かありましたか?」
「……いや、素敵なウクレレを持っていると思っただけだぜ!なあ、リザードン?」
「ばぎゅ!」
推しに褒められたピカチュウはどうなると思う?
「ピカピ〜……」
溶ける。本日二回目の溶ける。アイスかお前は
「大丈夫か!?キミのピカチュウ、溶けているように見えるんだが……!」
「大丈夫です、すぐ復活しますから!」
「そうか、ならいいんだが……」
(ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙硬い……手のひら、硬い!!え、デカ!手、デッカ……!!!そうだよねキョダイマックスのときのデッカイボール片手で投げるんだもんね……!ひや〜!!これが……推しッ!!)
(彼女がもしかしたら……。にしても小さくて、細い手をしている。寒さでこんなに冷え切ってしまって……本当に少年共々無事でよかった)