先日、ユノ君に頬とはいえキスをされてからというものの…。ユノ君からのスキンシップが若干多くなっている気がする。
保健医と言えど教師は教師。
教師と生徒がそう言う関係だなんて周りに知られたら大変な事になるなんて目に見えている。

「と、言う訳なので体調がすこぶる良さそうに見えるユノ君はすぐに保健室から撤退を命じます!」

保健室の片隅にある休憩スペースのソファで読書をしているユノ君の目の前に立ち、そう言い放つも彼は目をぱちぱちと瞬くだけでいっこうに退こうとはしない。

「ユノ君聞いてる?」

「聞いてますよ。…ただ、クロハ先生の言葉に間違いがあったので。」

「…?」

ユノ君は読んでいた本を閉じて近くのテーブルに置き、こちらを見上げてくる。

意識しないようにすればする程意識してしまって視線がユノ君の唇へ行ってしまう。
あの時の記憶が蘇ってきて恥ずかしさに堪えきれず視線を反らしてしまった瞬間、勢いよく腕を引っ張られバランスを崩した私はユノ君に支えられながら抱きしめられた。

「っっっ?!!!」

現状に付いて行けずまた茹でタコのように顔を真っ赤にさせながら固まるしかない。

「…俺ってそんなに邪魔ですか…?」

「………え…?」

小さなか細い声で呟かれた言葉にユノ君を見れば声音通り何故か悲しそうな表情をしていて少し邪険にし過ぎたかもしれないと反省する。
もしかしたら教室に居られない何か理由があって保健室に来ているかもしれない。

私はそっとユノ君の頭を撫でた。

「ううん、ごめんね。邪魔とか別にそんな意味で言ったんじゃないの。…その…私は教師であってユノ君は生徒であって…。えっと、だから…。」

出来るだけ傷付けないように言葉を探しながら話すもんだからしどろもどろになってしまう。
ただ、一言紛らわしいことはしないで欲しいと言えば済む話なのに…。

ユノ君の悲しそうな表情を見たせいか言うのを憚られてしまった。

「さっきの間違い教えますね。…俺、クロハ先生に会えないと逆に体調悪くなるので会いに来てるんですよ。」

耳元で囁かれて思考が停止する。
その間にするりと抱きしめられている腕が解かれて離れて行くユノ君に私は振り返ったけど唇に押し当てられた細い人差し指。

「休憩時間終わるので教室戻ります。…また体調悪くなったら来ますから治して下さいね、クロハ先生?」

大人っぽく笑うユノ君にドキドキしてしまって言い返す間もなく保健室から去って行く彼の背中を見て私はソファに力無く座り込む。
熱い頬を冷ますように両手を当てるもいっこうに冷めずさっき言われた言葉が頭の中で何度もリピートされる。

"クロハ先生に会えないと逆に体調悪くなるので"

それは、つまり。
逆を言えば私に会えば元気になるってこと…?
いまいちユノ君の心理が分からずただただ混乱するだけで、でも一つだけ確かなことは…。

「もしかして、からかわれた…?」

私は教師であって、ユノ君は生徒。
生徒にこんな感情抱いては駄目と分かってるけど冷めない熱と胸の高鳴りは自分ではどうすることも出来ないでいた─…。

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