カタカタとキーボードを打つ音が静かな部屋に響く今は授業中でグラウンドの方から体育の授業をしているクラスがいるのか声が微かに聞こえてくる。

このペースなら早々に終わりそうな仕事に今日の夕飯は何にしようかなと呑気にそんな事を考えていたらドアが開く音が聞こえて顔を上げた。

入って来た人物を見た瞬間、私はサッとパソコンの陰に入るも意味がなく、真っ直ぐこっちに歩いて来るから仕方なく顔を再度上げた。

「クロハ先生…。」

「ど、どうしたの?て言うか授業中なのによく抜け出せて来るね君は…。」

入って来たのは案の定ユノ君。

上手いこと授業中に抜け出して来る事に逆に感心しつつ彼の顔を見て違和感に気付く。

ぼーっと若干焦点が定まっていない目に顔が赤く、少し汗ばんでいるように見えた。
すぐに立ち上がってユノ君の額に手のひらを当てれば驚くほど熱かった。

「凄い熱じゃない!どうして学校来てるの!」

ユノ君をベッドに座らせて冷蔵庫から冷えピタを引っ張り出し彼の熱い額に貼って上げればパタリと力無くそのままベッドに倒れ込んだ。

ブランケットを二つ折りにして掛けてやり、苦しそうに唸ってるユノ君のかっちり締めているネクタイを解いてシャツのボタンを何個か開けてようと外してたらチラッと見えた鎖骨に手が止まる。

「(いや、これは息苦しそうにしてるユノ君の為であって、決してやましい気持ちは1ミリもないわけで…。)」

なんだかイケナイ事をしているみたいで、誰に言うわけでもなく心の中で言い訳をつらつらと述べながらボタンを開けてあげた。

とりあえず薬を飲ませて少し様子を見たら家に帰らそう。

確かユノ君の担任の先生は…。
内線でユノ君の熱の事と今は保健室で休んでいる事、目を覚まして様子を見て早退させる事を伝えれば申し訳なさそうに謝罪しながら後の事を頼まれてしまった。

「ふー…さすが学年主任兼任のウィリアム先生。いつも忙しそうね…。」

いつも忙しそうにしている先生だから内線出てくれるか心配だったけど良かった良かった。
薬箱から解熱剤を取り出して水が入ったコップと一緒にユノ君の元へ持って行く。

「…ユノ君大丈夫?薬飲める?」

「…ん、クロハ先生……?」

のそのそと起き上がる様子を見るにだいぶ辛そうで、一人で早退させるのは危ないかもしれない。

薬を渡せば素直に受け取り飲んでくれた。
熱が多少下がるまではまだ様子見かな…。

「ユノ君、何で熱あるのに学校来たの?来るの大変だったでしょう?」

「…最初は休もうとしましたけど…やっぱりクロハ先生に会いたくなったから…。」

「!…い、いつでも会いに来れるでしょ!もう、無理して悪化したらそれこそ私に会えなくなっちゃうわよ?」

そこまで言ってハッと自分の言った言葉に気付いて慌てて言い直す。

「あ、えっと…!悪化したら学校休まないといけないし!勉強にも遅れが出てくるし…!そしたらもっとここにも来れなく……て、何言ってるんだろ私…!」

慌てると慌てた分だけ墓穴を掘ってるような気がしてならない。

「と、とりあえず!ユノ君は安静に!私は向こうに居るから何かあったら呼んでね?」

「…!待って…!」

仕切りであるカーテンを閉めようと腕を伸ばしたのと同時に横からユノ君の腕が伸びてきて私の腕を掴んできた。
でも上手く立ち上がれなかったユノ君は私ごとそのままの勢いで床へと倒れ込む。

「………ったぁ〜…だ、大丈夫?ユノ…く、ん……。」

咄嗟に私が間に入り込み、ユノ君の床との顔面衝突は免れたけど私が背中とお尻を打ち付ける羽目となった。
痛みに耐えながら上に覆い被さっているユノ君に声を掛けて目を開けて見た現状にピシリと石になる。

私の胸にちょうどユノ君の顔が埋もれていた。

「…先生意外と胸あるんですね。」

「そ、そんなとこで喋らない…!そして早く退きなさい!」

「…心臓すごいドキドキ鳴ってる。俺の事、意識してくれてるんですか…?」

両手首を掴まれたせいで逃げれない。

覆い被さっているユノ君は私を見下ろしながらそう聞いてくるけど私は視線を反らすだけで答えない。
それを肯定と取ったのか否なのか、ユノ君は再度私の胸に顔を埋めてくるから私は慌てる。

「…ユノ君?!」

「クロハ先生、柔らかくて抱き心地良いですね…。良い匂いもしますし…。」

それだけ言ってすーすー、と規則正しい寝息が聞こえてくる。

「嘘!?この状態で寝るの!?ユノ君ー!」

完全に夢の中へと入ってしまったユノ君の名前を何度も呼び掛けるけど起きる気配がなく、辺りに私の情けない声が響くだけだった─…。

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