「折角の休みなのに…ヤミ先生ホント人使い荒いんだから…。」

おつかいと言う名のパシりを頼まれた私はブツブツ文句を言いながら重たい荷物を持ってヤミ先生の家へと歩いていた。
角を曲がったすぐ近くに見知った姿を見付けて足が止まる。

「その荷物も俺が持ちますよ。」

「ありがとう、ユノ。重いから気を付けてね?」

「平気ですこのくらい。」

ユノ君が女の人と一緒に買い物している。

学園の女子生徒達にモテモテなのに誰一人として見向きもしないあのユノ君が年上らしき女性と買い物してる!
その衝撃的な事実に私は動揺が隠せず、慌てて近くの物陰に隠れて二人の様子を伺った。

か、彼女かな…?
黒い艶のある髪に優しそうな顔でスタイルも良く、なんだか落ち着いた雰囲気を纏ってる彼女はユノ君と並べばお似合いに見えた。

「…何よ、ユノ君ってばあんな美人な彼女いるじゃない…。」

ズキン…、と感じた胸の痛みと自然と出た自分の言葉に驚いて口に手を当てる。
いやいや、これではまるであの二人を見て私は傷付いてるようじゃないか。

ユノ君に私は…。

「…あの…?大丈夫ですか?もしかしてどこか具合が悪いんですか?」

「……!?」

俯いて座っていたせいか、心配そうに声を掛けてくれた人がいる。
私は慌てて立ち上がれば目の前に隠れて見ていたユノ君の彼女さんがいて、隣には荷物を抱えているユノ君も驚いた顔で私を見ている。

「クロハ先生…!」

「こ、こんにちは、ユノ君…。」

隠れて二人を盗み見してたせいかどうも気まずくて…。
私は挨拶もそこそこに去ろうとしたけどユノ君に呼び止められてしまった。

「シスター、ごめん。アスタ呼んで荷物運び手伝ってもらって…!」

「ふふ、はいはい。でも大丈夫よ?こう見えて力あるんだから。」

彼女さんはチラッと私を見て微笑みながら会釈して去って行くもんだから私も反射で会釈すれば、重たい荷物が急に軽くなって驚く。

「ゆ、ユノ君…?!」

「俺が持ちます。」

「だ、大丈夫だよ!…ユノ君は彼女さんの方を助けてあげて…?」

奪われた荷物を奪い返そうと手を伸ばせばぎゅっと手を握られてしまう。

「…彼女…?」

「…え?さっき隣にいた綺麗な女の人……。」

「シスターは彼女じゃないですよ。……保護者?」

いや、私に聞かれても…。
でも、そっか…彼女じゃなかったんだ。
心の中に出来ていたモヤモヤが嘘のように晴れていく。

「…もしかして、ヤキモチ妬きました?」

「!?う、ううん!全然妬いてない…!」

必死に否定するけどユノ君は満足そうに微笑む。
なんだか心を見透かされたような気がして恥ずかしくなって視線を反らすけどユノ君の声にすぐに視線を戻した。

「それにしても凄い荷物ですね。…いつもこんなに買うんですか?」

ユノ君は私から奪った荷物の中身を見て不思議に思ったのか聞いてきた。
ヤミ先生からおつかいと言う名のパシりを頼まれた事と今からその荷物を届けに行く途中だった事を言えば微かに繋がれた手に力が込められた。

「俺も一緒に行きます…!」

何故か断言しているように聞こえたような気がしたけど私とユノ君はそのまま手を繋ぎながらヤミ先生の家へと歩くのだった─…。

prev next
back