ケロイド
宗一の楽しそうな声が響く。
「良い様だな、豚。」
病院という名の研究所に連れて帰った男を見、笑う。
海老反りに吊るされ、何度も水の中に沈められる。そうして、穴と云う穴全てに水が入り、噎せる男の姿を見て笑う。笑う宗一に、此の人だけは敵に回すまいと、時一は固く心に誓った。
「御楽しみの最中失礼、ソウイツ。」
「来たか、ハンス。」
一旦笑うのを止め、沈められている男を鼻で笑うハンスに向いた。
「トイキツを笑って居たのに、無様だな。」
「だろう?写真に撮って於こううかな。」
引き上げられた男は水槽の中でも聞こえて居たのか、微かに動く口を宗一に向けた。
「写真だけは止めて呉れ…」
そう懇願したのだが激しくストロボを焚かれ、目を焼かれた。
「出来たら見せて呉れ。」
「一物共々、引き伸ばして本国に送り付けて遣ろう。」
目を覆いたく為る程の拷問、其れでも可哀相等微塵も思わない時一は、矢張り何処か残酷性を秘めて居るのだろう。証拠に、顔が笑って居た。
「処で、宗一さん。此の男を連れて帰って来て、何を為さる積もりですか?」
まさか、拷問目的で連れて来た訳では無いだろう。若し此れが本当に、唯の拷問目的だとしたら、良い性格をして居ると思う。
用途があるから連れて来た筈。
「嗚呼。一寸俺の技術発展に貢献して貰おうと。」
「技術発展?」
首を傾げる時一。
「此の豚の皮膚を、時一。其の左の顔に移植する。だから、日本人に色味が似ている此奴を連れて来た。」
其の言葉に、目を見開いた。そんな事が可能なのか、聞いた事も無い。自分だけが知らないだけで、医学界では当たり前の話なのか、ハンスを見たが水槽をニヤニヤと眺めて居るだけであった。
時計を見た宗一は云った。
「もう良いだろう、楽しんだし。降ろせ。」
此の拷問には、きちんと意味があったらしい。時一は其れに驚いた。悪いが、唯単に楽しんでいるだけだと思って居たのだ。
引き上げられた魚の様に、ビニールシートが敷かれた上に男は落とされ、激しく噎せて居た。
「時間にして十五分、消毒は済んだだろう。」
「消毒?」
聞く時一に、宗一は浴槽の栓を抜いた。
「此れね、水じゃなくて、消毒液なんだよ。」
其れは嘸、鼻から入ったら痛かったであろう。水でもあんなに痛いのだから。水責めに代わる新たな拷問の開発、が真の目的では無いかと疑う。
薄いゴム手袋をし、男の身体を宗一は触った。
「何だ御前、軟い所無いじゃないか。何処も彼処も固いな、豚。」
「知らねえのか…、豚ってのはな、体脂肪率一桁何だぜ…。固いに決まってる…」
強気を見せる男だが、だから何だと云わんばかりにハンスに頭を踏まれた。
「内太股は?其処は大体柔らかい。皮膚移植も通常其処だろう?」
ハンスの言葉に、宗一は顔を顰めた。
抑、皮膚移植はハンスの云う通り、移植する本人の腿、或いは臀部の皮膚をするのだが、時一の身体に傷を付けたくないと、宗一が文句を云った。移植出来る対象者を探して居る最中に、男が現れた。此れは「是非自分を使って呉れ」と云って居る様なものだった。
「嫌だよ、時一の顔に移植するんだぞ?積まりだ、此れから先俺は、此奴の太股にキスをする事に為るんだ。」
「嗚呼、其れは嫌だ。じゃあ、やっぱり。」
云って二人は男を見た。
「顔しかないか。」
「厚そうな面の皮だけど。」
時一も其れを願った。何が悲しくて男の太股等、顔面に貼り付けなければいけないのか、冗談では無い。
冗談では無いのは男も同じだった。
「じゃあ…、俺の顔は如何為るんだ…?」
顔の皮膚を剥がされる等、普通に生きて来て考えた事があるだろうか。
蒼白する男の言葉に時一は顔を歪ませた。
「今の僕の様に為るでしょうね。」
大衆の面前で受けた屈辱、今晴らさず、何時晴らすのか。止めて呉れとの願いを無視したのは誰だ、御前だろうと、冷淡な自分に恐怖さえ覚えた。
「其れでも良いけど、豚の皮膚でも移植して遣ろうか。此れぞ本当に、豚野郎だな。傑作だ。」
此れを、因果応報、自業自得と云う。時一は声を殺して笑った。
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