ケロイド
目が覚めた。一体どれ程寝て居たのか、聞けば一日と短い。麻酔の所為でか倦怠感は酷く、口も上手く回ら無かった。
「其れで、あの…」
宗一の云った皮膚移植とやらは成功したのだろうか。何時もと変わらず覆われる包帯を触り、此の下は、果たして如何為って居るのか。
不安を覚える僕に宗一は溜息を零す。
「完璧過ぎて、自分に嫉妬しそやわ。」
如何やら、成功したらしい。
こんなに完璧で良いのだろうか、流石は大日本帝國医学界二番手に君臨する自分、流石は神の手、等と存分に自画自賛した。余りの完璧な出来に、誰も何も云って呉れ無かったと云う。
「包帯は、そやな、一週間後に取る事にしよか。其の間引き攣りとか、痛みとかあるかも知らんけど、皮膚が馴染もうとする過程やから、そう気にしなや。でも、余りにも痛みが酷かったら云うんやで。細胞が壊死してる可能性が高いからな。」
「はい。」
何て、恰好良いんだろう。我が恋人乍ら、惚れ惚れし、そして、惚れ直す。自画自賛、良いでは無いですか。
唯、気に為る事が一つある。在の男の事だ。本当に豚の皮膚を移植させられたのだろうか、其れは其れで見物だなと思う。良い見世物だ。
喉の奥で笑い、そんな僕に宗一は息を吐いた。
「気に為るんか?」
「え?」
「其の左半分の元所有者。」
左半分の、元所有者―――。
自分の顔であって、自分の顔でない。何も変わって居ないのだなと、けれど、在のケロイドが無くなったのなら、呪縛が無くなったのなら、如何表現され様が構わなかった。
「然程気には為りませんが、聞かせて頂けるのなら。」
「…今頃、どないしてはんのやろなぁ。」
其の所を見ると、宗一にも判って居ないらしい。何でも終わった後、ハンスが軍に持ち帰ったとの事。
「死んどるかもなぁ。何せ相手は独逸軍や。石鹸にされとるかも。」
「石鹸?」
「何か、人間で石鹸作るて。作ってもなぁ。使いたい?」
「いえ、全然。」
「よなぁ。ま、良えか。」
笑い、宗一は優しく頭を撫でて呉れた。そうして、髪を指の間に梳く様に入れ、暫く考えて居た。
「包帯取ったら、髪、切ろうか。」
宗一の言葉に一度瞬きをした。
「ほら、其の髪はさ、隠す為やったやろ?ちゅう事はもう要らへんから、切ったらええやん。其の顔に長い髪やから女に間違えられるんやろ?」
「でも、僕袴履いてますよ?」
「阿呆か。此処で、袴が男子の服て誰が判んねや。彼奴等な、着物判ってても違い判って無いで。逸そ、着物止めたらええ。洋服、用意しとこうか。」
云われて見ればそうかも知れない。日本では、袴を履いて居た為辛うじて男と認識されて居た。スカートには決して見えないから男に思われて居ると考えて居たが、若しかすると、本当に女と思われて居るので無いか不安に為った。
煙草を消し、一時間置きに見に来ると立ち上がった宗一の袖を掴んだ。
「あの…」
「何や?」
笑っては居るが時計を一瞥した姿に手を離し、首を振った。
「いえ…、有難う、御座居ました…」
俯く僕に宗一は苦笑い、「敵わんな」と時計と白衣を外して呉れた。
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