母国情緒


「ふは。ふははははは…」
高らかと聞こえる笑いを時恵は茶を啜り、無言で聞いて居た。
「井上拓也、御帰還だっ、ばんざーいっ、ばんざーいっ」
万歳三唱繰り返し、何時に無く笑う龍太郎を見た。何時もは奥歯に何か挟まった様な渋い顔で居る、そんな龍太郎ばかり見て居る為、時恵は不思議な感覚を覚えて居た。
「御機嫌が、宜しい様で。」
「そうとも、拓也が帰って来るんだぞ、こんな嬉しい事が、あって良いと思うのか?」
「左様で。」
判らなくも無い。時恵も、時一の時には同じ事をすると思う。着物の袖を揺らし、万歳三唱をする。
「早く、御着きになると、宜しいですわね。」
微笑む時恵。そんな姿に龍太郎は力一杯抱き締めた。
「有難う。」
「龍太郎様の大事な方は、私にとっても大切な方。御存知でしょう。」
「嗚呼、そうだな。」
大事な人間の大事なものは、大事なのだ。そう詰まり。
龍太郎は身体を離し、テーブルに置かれた拓也の酒器を触った。
「出掛けて来るよ。直ぐ戻る。」
微笑み、袴の裾を揺らした。
「いってらっしゃいませ、龍太郎様。」
深く頭を下げ、見送った。




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