海軍元帥・加納馨


響く靴音。並び、双眼鏡片手に海を見る兵を見、馨は肩を上げ笑った。
「今日も勤しんで何依りですねぇ、子供達は。」
海軍の誇りとも云え様、東洋最大、最強、最速の軍艦・柊、戦艦・椿。馨が設計し、自ら乗り込む軍艦。今日は其の軍艦では無く、巡視船に搭乗して居る。此れも勿論、馨が設計した。
天に向かう旗は、今日も優雅に靡いて居た。
「おやまあ、在れは何処の敵艦ですかね。」
双眼鏡から小さく見える船を指す。
「朝鮮かと思われます。」
「成程、通りで小さい。情けないですね。」
「柊に連絡を?」
砲撃準備をするか否か、中将の言葉に一層口角を上げた。
「いいえ、結構。今日は気分が良い、見逃してあげましょう。…いや、在れは…、漁船ではありませんか…?」
倍率を上げ良く見ると、全く関係の無い船であった。
「嗚呼、そうですね。良く良く見ると軍艦ではありませんね…」
「軍の船にしては道理で小さい…」
船に矢鱈反応して仕舞う。然し何、焦る必要は無い。何れ、軍艦だろうが漁船だろうが国諸共木っ端微塵に食らわせて遣ると馨は笑う。
「そう云えば此の間のソ連の軍艦…、戦艦ですかね?在れは大きかったですねぇ。危うく負けそうでしたよ。」
双眼鏡を離した馨は、船から目を逸らした。
「情報が余りありませんからね。」
「行き成り砲撃をして来るとは、中々に頂けない。野蛮な方々ですねぇ。」
云って双眼鏡を渡した。
中将に背を向け、其の背中に中将は聞く。
「何方へ、元帥。」
「陸軍さんに、ちょっかいでも掛けに行きますか。」
野蛮な方々、で思い出した様に呟く。こうして暇さえ見付ければ陸地に戻り、陸軍をからかいに行く。結婚もして居なければ恋人も居ない馨の楽しみは、此れしかないのだ。
自分の嫌がらせに怒りを見せる和臣の姿を思い出すと、笑わずには居られない。操縦室から見える場所に馨は立ち、腕を陸に向けた。
「全速前進、目指すは陸軍。」
ざっと水を割り、波を作る。黒煙が、青い空に昇った。




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