受胎告知は堕胎宣告


母親の気合いが見て取れる程豪勢な食事がテーブルには並んでいた。何れも馨の好物ばかりで、琥珀には正直好ましくない。
琥珀は、生魚が苦手なのだ。
テーブルに並ぶ馨の好物は、河豚と鮃の刺身を主に、ずらりと其れに合う物が並んでいる。
此れは凄いと馨は息を漏らし、遠征に行くのも悪くないと、琥珀の腰に腕を回し、後ろから抱き竦めた。
「母上にごり押しされました?」
「馨さんが喜ぶなら良いよ。」
テーブルを見詰めそう云う琥珀に、云い様の無い愛おしさが溢れ出、今直ぐにでも寝室に引き擦り込みたい気分になる。
「愛しておりますよ、琥珀。」
「あたしもだよ。」
細い琥珀の指が馨の頬を掠め、腕から離れると、先に座っていてくれと台所に向かった。腕から消えた琥珀の温もりに馨は息を吐き、其の現実を噛み締めた。船の上での幻覚で無い確かな現実。無意識に口角が上がった。
珍しく馨は酒を飲み、とろりと酔った顔で時折刺身を食べていた。普段なら絶対にしない、テーブルに肘を付くと云う姿で酒を飲み、軍服を開けさせ、とろとろと話す。其れが琥珀には面白くない話でも琥珀には嬉しかった。馨が目の前に居ると云うだけで琥珀は倖せだった。
ふと会話が止まり、馨は静かに酒器をテーブルに置くと其の侭向かいに座る琥珀の頬を撫でた。無言で見詰め、愛らしい目の下の膨らみを摩る。其の動きに合わせ琥珀は目を瞑り、椅子の音を聞いた。テーブルに身を乗り出した馨は其の侭琥珀に口付け、少し離しては又付けた。微かに開いた目で馨を捉え、琥珀も椅子から立ち上がった。皿が落ちない様に皿を手で払い、同じ様に身を乗り出し、テーブルの上で荒く唇を貪った。馨の教える酒の味に琥珀は息を吸い、柔らかい唇を噛んだ。
「又…噛みましたね…?」
「云ってるでしょう、美味しそうだって…」
旨そうな唇をする馨が悪いのだと、馨の首を触り、其れに気付いた馨は琥珀の身体を引き寄せた。テーブルに片膝乗せ、引かれる侭にテーブルに座った。こんな品の無い事、母親に知れたら雷が落ちる。けれど知った事では無かった。品のある情事等、誰が知る。厭らしく、品が無く、液と云う液を垂れ流す、此れが甘美な官能。
馨は椅子に座り、自分を見下ろす琥珀を見た。
緩く笑い、視線を家鴨座りでテーブルに乗る肉厚な太股に向けた。スカートの上から撫で、少しずつ捲り上げた。
「足を、伸ばして。此処に。」
高い声に促され、テーブルから股を離すと馨の指示通りに、椅子にある左右の肘置きに足を乗せた。動きでスカートが揺れ、隠れていた股が見える。猫を撫でる様に馨は琥珀の股を愛で、与えられる心地良さに琥珀は爪先立ち、少し椅子を引いた。
「私は魚依り、此方が好きです。」
膝に唇を置き、柔く撫でていた手は急に荒々しくなり始めた。
内股に感じる馨の舌に息が出る。
息を吸った時、馨の舌を其処に感じた。突起を舐め上げ、啄む。琥珀が好きなのは、実際の処此処迄だ。馨の欲を身体に埋め込み、精液を受ける行為は嫌いだ。
久し振りに味わう妻の味。其れがこんなにも厭らしいとは知ら無かった。
馨は一体顔を其処から離すと眼鏡を外し、投げ捨てる様にテーブルに置いた。琥珀は其れに視線を向けたが、直ぐ様与えられた快楽に退け反った。テーブルクロスを握り締め、無意識に腰を押し付けた。大きく開かれた足の間にある馨の身体。テーブルから手を離し、其の背中を撫でた。
「馨、さん…」
「……ん…?」
顔を上げ、琥珀の顔を覗いた。大きな目が、物欲しそうに揺れ動いていた。
琥珀は夫の欲が欲しい訳では無い。狂う程の快楽と、夫の全てが欲しい。
「馨さんの人生を…目茶苦茶にしてやりたい…」
其の言葉に、馨は目を少し開き驚きを見せた。
馨が琥珀に対して、自分が居なければ生きてゆけ無い様にしてやりたいと思う様に、琥珀も又思っていた。
琥珀は馨を壊したい。
馨は琥珀を支配したい。
其れが肉体的か精神的かは、何方にも判らない。
馨は薄く笑うと、私もです、と再度顔を蹲めた。
「もっと、声を…」
背中から離れた琥珀の手はテーブルに戻り、眼鏡と皿が擦れた。
「あ…御免為さい…眼鏡…」
「構いませんよ、眼鏡の一つ位。」
レンズに傷が付いてしまったのでは無いかと琥珀は狼狽したが、馨は其れを持つと琥珀の口に挟んだ。
「咥えて為さい。傷を付けたら御仕置きです。」
そんなの無理だと云いたかったのだが、歯が揺れるだけだった。
「落としても、駄目です。」
眼鏡を舌で支え、レンズに歯が当たらぬ様努力したが、下に広がる快楽に口が開いた。涎と共に眼鏡は落ち、こつんと馨の頭に当たった。舌の動きが止まり、馨は頭に乗る眼鏡を掴むと其れで琥珀を弄り始めた。
レンズの冷たい感触に突起が膨れ上がり、レンズにねっとりと液が絡み付いた。其れを馨は、琥珀の口の中に入れた。初めて知る自分の味に、琥珀の秘部は熱くなった。指で掬える程液が溢れ出し、馨はくつくつと笑う。
「御自分の味は如何です?」
云える訳が無かった。答え等始めから期待して居ない。唯、此れが御前の味だと教えてやりたかった。
「美味しいでしょう?私の一番好きな味です。」
「美味しい、の…?」
此れの何処が旨いのか理解出来ないが、馨が旨いと云うのだからそうなのだろうと琥珀は眼鏡をテーブルに置いた。
「勿論です。此れ以上の物、此の世には存在しません。」
音を立て、馨は其の液と突起を吸い上げた。唾液と混ざり、味が鼻を抜ける。内側から知る此の味が、好きで堪ら無かった。
小さな悲鳴が聞こえ、肘置きに伸びる足が震え、馨を揺らした。琥珀の絶頂を知った馨は、未だ終わらないと、震える足を撫で上げた。




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