御祭り騒ぎ
射的をするのは、別に物が欲しいからでは無い。腕試しをし、遊びたいに過ぎない為、在の店で大和達が落とした物は無事棚に並んで居る。拓也達が金魚屋台に向かった暫く後、一幸を連れた雪子が的屋に現れた。一幸に「在れが欲しいです、父上」と云われたので、其れだけを和臣は貰い、喜ぶ一幸の姿に馨は胸が苦しく為った。
一幸と云う、自分には居ない子供の存在にでは無い。
頭を撫で、笑う和臣の姿に胸が苦しく為ったのだ。
一幸には目一杯の笑顔を向けた和臣だが、馨に向いた時には修羅の顔に戻って居た。
二人は二言三言挨拶を交わし、雪子から会釈を貰った琥珀は同じ様に会釈を交わした。
和臣に抱かれ、肩から顔を出す一幸は無邪気な笑顔で手を振り、琥珀も手を振った。
「可愛いなあ、一幸。目茶苦茶足早いけど…」
「子供には追い付け無いよ、琥珀。」
「小さいからかな。」
「若いからだよ。」
琥珀と愛子は顔を見合わせ、一度深く溜息を吐いた。そんな二人に大和は笑い、地面に置いて居た紙袋を親父に渡した。
「邪魔やけん、貰っちゃらんね。」
「良いけど、明日此処に並ぶよ。」
「構わんばい。困るとは、此いば落とした的屋やけん。」
愛子に何か欲しい物はあるかと聞いたが、夜店なら未だしも的屋の物等大した物は無いので首を振った。
的屋を後に、適当に腹を満たし乍ら数軒の夜店を見て回った。其の間中大和は酒を飲み、愛子は心配を見せるが時折自分も飲んで居た。琥珀はずっと綿飴を食べ、三軒目の夜店を見た時には、五本目の綿飴を食べ終わって居た。馨は馨で、ずっと氷を食べて居る。御蔭で舌が変な色を見せる。
群集は次第に薄れ、人が疎らに居る薄暗い夜店の中で、琥珀は其れを見付けた。
「在れ何?」
背中を引かれた馨は、スプーン先に乗せていた氷を地面に落とした。琥珀の視線に顔を向け、嗚呼、と云った。
夜であるのに黒いテントを立て、不気味な雰囲気を漂わせる。
「占いですね。」
下らない、そう馨は息を吐いたが、面白そう、と琥珀は一人其の占いの館に向かった。
「琥珀、こら…」
止めるが琥珀は聞かず、琥珀の占い好きを愛子は云った。
「オカルトマニアか、琥珀ちゃん。」
狐と結婚する位なのだからそうだろうと、興味無く酒を流した。
琥珀色の髪は何かを期待する様に揺れ、入口の幕を捲ろうとした時、中から人が、二人出て来た。
「最悪だよっ、何だい此の占いっ」
静かな闇を一瞬で祭の様に騒々しくさせ、ぎゃんぎゃんと喚き乍ら濛々と紫煙を吐いて居る。
琥珀色よりも一層強烈な光りを出すブロンド。其れに馨は氷を食べる手を止めた。
「ヴィッキー、止めた方が良いよっ、此処っ」
煙草と共に暴言を地面に叩き付けた。
「ヘン、リー…。未だ居たんだ…。ダディは…?」
姿は二人しか見当たらず聞いたが、女の人に追われてた、そうハロルドは適当にあしらった。
「其れより聞いてくれよっ」
「何…?」
「俺とキースの相性最悪だって云われたんだっ。今世紀最大の相性の悪さだってっ。貴方は彼に振り回される運命、一緒には居ない方が良い、貴方は自己犠牲愛の塊で優し過ぎるから彼の傍若無人さに何時か倒れる、彼は稀に見る最低な男よ、彼に貴方を与えるのはユダにマリアを与える様な物よ、そう云ったんだっ」
そんな事はもう判って居る、十年以上一緒に居るんだ。
そうハロルドは捲し立て、一度進めた足をテントに戻し、幕から顔だけ中に出すと「くたばれ糞婆、糞いんちきが。絶対別れないからな」そうチンピラの如く悪態吐き捨て、キースの持って居た酒を流し込んだ。マリアのハロルドに対し、傍若無人の稀に見る最低男のユダと云われたキースは、怒りの度が越し、喋りもしなかった。
いんちきだから止めた方が良い、そう琥珀は云われたが、首を傾げた。琥珀にキースの性格は良く判らないが、いんちきとは思えない。
「ヘンリーが優しいのは、当たってるよね…?」
だからいんちきでは無い。然し不安の残る琥珀は首を傾げた侭幕を捲り、変な香の匂いを鼻に感じた。
「マーシャル ベイリー…、如何為さいました…」
般若の如く人相を極悪に歪めるハロルドに馨は恐る恐る声を掛けた。此れで同盟を解消されたら堪ったものでは無い。
「如何したもこうしたも無いよっ、最低だよっ」
「アドミラル ベイリー…?」
「一寸話し掛け無いでくれるか。機嫌が悪いんだ。」
「はあ…」
最悪な機嫌を見せる二人に馨は気を取られ、テントを見た時には琥珀の姿は中に消えて居た。変な事は吹き込まないで貰いたい馨は、占いに行く琥珀を止めたかった。若し此れで、ハロルド達みたく真実を突き付けられ逆上しても、馨には如何仕様も無いのだ。
「こんな不愉快な話ってあるかいっ」
「なあ加納、俺はユダか?俺はアドミラルだ。神より上に居るそんな俺に向かってユダとは何だ。日本は爆発しろ。」
八つ当たりされる馨は、はあだのへえだの適当に言葉を漏らし、気は完全にテントに向いて居る。
不愉快極まり無い思いをする為に日本に来たんじゃ無い、と二人は悪たれ、腹が立つから焼きそばを買い占めて帰ると、怒りを食欲で解消し様とした。其れで怒りを解消し、同盟を解消しないのであれば、馨に問題は無い。琥珀に気を取られて居る為馨には気付か無かったが、愛子は少し考えて居た。
此の二人の怒りの方向は完全に違うのだ。
散々貶されたキースが怒りを見せるのは判るが、ハロルドに至っては絶賛されて居る。キースは貶された事に怒り狂い、ハロルドは最悪の相性に怒り狂って居る。自分勝手なユダと自己犠牲愛のマリア。矢張り此の二人の相性は最悪なのだと、愛子は其の占い師を信じ切った。
「私も、行こうかな…」
占い等全く信じない愛子だが、興味を煽られた。然し大和に首を振られたので、渋々林檎飴を口に入れ乍らテントを眺めた。八つ当たりされた馨は疲労を顔に浮かし、大和の持つ酒を奪うと無言で全てを飲み干した。
「馨、嫌な事酒で忘れる癖、止めたが良かよ…」
「煩いです。」
「酒は楽しく飲まんといかんばい…」
「ええ、楽しいですよっ。愉快過ぎて不愉快ですっ」
結局楽しく無いのでは無いかと、突き返された空瓶を大和は覗いた。
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