perverted play U


寝室に電話を置くべきでは無かった。電話をする等、決まって仕事で、リビングに置いたら確認の度一々寝室に迄書類を取りに行く羽目に為る。
重要な書類は寝室にしか置かない。書斎は、結局寝室で書類を見る事に為るから最初から無い。
だからと電話は寝室にあるのだが、程好く疲労知り始めた時に鳴ると、矢張りリビングに置いて於くべきだったと痛感する。
時刻は十二時に為ろうとして居た。
こんな時間に掛けて来るとは、余程の非常識か俺達が最も恐れる仕事。
キースの首筋から唇離した俺は、鳴り響く電話を見た。結構な時間鳴り、互いの欲が沈み始めた頃静寂が訪れた。
「誰だろうな。」
動く喉を無言で嘗めた。
「誰でも良いよ。」
電話から俺に視線を向けさせ、熱い吐息を飲み込んだ。のだが、見詰め合った侭絶望の吐息を吐き、喧しく鳴る電話を見た。相手の感情が其の侭現れて居る様な、何とも煩い音である。
其れが四回程続いたか、誰だ俺達の愛を作る時間を妨害する非常識者は、線を抜いて遣ろうか考えた。然し、こんな状況で線を抜いたら翌日には互いに忘れて居る。
キースは元から記憶力に自信は無く、ある筈の俺は、今はキースにしか集中して居ない。どんな手で愛を作ろうか、そんな考えの時に怒りで線を抜いたら、忘れるに決まって居る。
次鳴ったら、次鳴ったら文句の一つでも云って遣ろうとキースに愛撫をし、十回目のベルが鳴った。
「一寸、本当に誰だい。」
こんな夜中に十回も電話するとは、余程の事だろう。愛撫の手を止め、完全に其の気失せた俺達はベッドから離れ、バスローブを羽織った。酒でも取りに行く、と云ったキースに静止を促した。
電話を取ったのは俺。受話器から聞こえた声に、キースを無理矢理椅子に座らせた。
「誰だ?」
「聞けば判るよ。」
通話口に口を寄せ、ハロー、と云ったキースは、折り返し来た声に受話器を放り出した。
「御父様…………っ?」
『そうだよ馬鹿息子。』
ベイリー公と話すのが苦手なキースは変わって呉れと涙目で訴えるが、無理、とパイプを咥えた。
こんな時間に掛けて来るとは急用に違いない。其れを第三者が繋ぐ理由は無い。
「御父様?こんな時間に何か…」
何時に無く震える声。
『用は無いよ。』
「切って…良いで…」
『駄目。と云うか、ヘンリーの声を聞きたかっただけ何だよ。』
何故御前に変わったんだ、と不機嫌そうな声が聞こえた。
「御指名だ、ヘンリー。」
渡された受話器を耳に付け、少し酔った様な口調を聞いた。
ベイリー公は良く仏蘭西に居る。今夜もそうで、寝室でワインを飲んで居る時、手帳に印した電話番号を見付けた。何処の番号だったかゆらゆらワインを嗜んで居ると、其れが俺に繋がる番号だと思い出した。息子の声でワインを飲むのは嫌だが、俺の声だと最高の肴に為る、時間も時間で絶対に居る筈だと、結果コールし続けた。
人の都合は構わない、彼らしかった。
「光栄ですが、ベイリー公。私は貴方を楽しませる話術は持ち合わせて居ませんよ。」
『良いんだよ、キースの悪口で。』
相当性格の歪んだ人物だと云う事は判った。
キッチンから酒を持って来たキースはベッドの上で酒盛りを始め、俺を見て居た。
「御一人ですか?」
『いいや?美女が居るよ?』
だったら其の美女と大人の時間を楽しめば良いもの、遥か遠くの英吉利に電話を掛け、手元の美女を放置する。ベイリー公は謎である。
『邪魔だった?』
はっきりとは云えないが、察しの良い彼の事だから気付いて呉れると無言に為った。矢張り察し、「御免御免」と笑いはするが切る気配は無い。キースの父親だからと我慢はするが、我が儘な大人、俺は大嫌いだった。
傲慢と我が儘は違う。
我が儘は、子供だけが許される事。大人がしてはいけない。大人がするなら傲慢で無ければ為らない。
「ハリー、ハリー。悪いけど切るよ?」
『そんなぁ…』
「じゃあキースに変わるね。」
『え、嫌だ、嫌。』
言葉の途中で、嫌々するキースに受話器を持たせた。
「御父様…」
『キースは御呼びじゃない。』
机に上体を乗せ、腰を引く。嫌だ嫌だと互いに云うが、ならば切れば良いのに、其れはしない。何だかんだで此の親子、仲が良い。
『最近、エレナに会った?』
「ディアナには会いました。」
二人の話題は、自然と在の母子に為る。キースは詰まらさそうに酒を飲み乍ら相手をする。
暇な俺は寝様としたが、ふっと在る悪戯を思い付いた。椅子に座るキースの足元に座り、気付いたキースは顔を強張らせた。
「一寸待て、何する気だ?」
『え?何何?』
「一寸、御父様、待っ………ヘンリー。ヘンリー頼む、止めろ。」
ベイリー公とキースの歳が、兄弟位にしか離れて居ないからか、余り実感が無い。父親と云うよりは長男みたいで、キースは末。大体、こう云っては失礼だが、十五歳しか離れて無いのに“御父様”は傑作だ。“御兄様”と呼んで遣れ。
そんな感覚があるからか、親の前だと云うのにとんでもない事を始めた。
バスローブから剥き出した太股に唇を重ね、鼠蹊部迄舌を流した。未だ石鹸の匂いを残す其処に顔を埋めた。
がつん、と受話器は机に落ち、ずず…と絨毯を引き摺る椅子の音を聞いた。
『キース?』
「……ヘ…ンリー………」
『一寸一寸…君達何してるのさ…。父親の前で…』
此れが娘だったら、怒鳴り散らされたに違いない。仏蘭西から駆け付け、三日後には血達磨だろう。息子だから良い、と云う話でも無いが。息子の喘ぎ声等、然も男同士、最悪である。拷問に近いであろう。
腕は乗せるが椅子はかなり引き、腕の間から俺を見下ろした。
「ヘンリー…駄目だって…。ねぇ…」
父親に聞かれて居ると云う恐怖心でか、矢鱈幼い口調に為る。鼻先に知って居た石鹸の匂いは、鼻腔奥から流れて来た生々しい匂いに掻き消された。
「如何せ切れてるよ。」
陰部を含んだ侭云った。ひくんと根元から動く。
「切れてる、よな…」
幾ら自他共に認める悪趣味としても、息子の其れは聞かない、遠慮するだろうと受話器を耳にしたキースは、受けた非常識に無言に為った。
ノイズ音がし、繋がって居る事が判る。
「切って下さい、御父様…」
『え?何で?』
「何で、って…」
嫌でしょう?と聞いたが、返事は又「何で?」であった。
「一寸貸して。」
バスローブで口元拭い、通話口に顔寄せた俺は、此の変態親父の真意を探ろうとした。
然し、相手は在のベイリー公だ。俺の様な青二才が口や頭で勝てる筈は無い。
『聞かれたく無いならさ、普通、そっちから切るよね?』
普通は遠慮して切る。
「掛けて来たのはそっちだよ?」
『あれ、知らない?電話って云うのはね、受けた側が切るのが常識何だよ?こっちに用事があって、相手の時間を割く訳じゃない?其れが、こっちから切ったら、無礼千万だよね?』
鬱陶しい親父だ。非常識のオンパレードをして於いて何が常識だ、彼の常識とやらを知りたい。
「でもさハリー、考えない?」
『受話器置けば済む話だろ?』
「詰まり…」
自分に切る理由は無い―――とんだ変態、流石はベイリー公。
そして、俺も彼に負けずとんでもない変態だ。父親に息子の声を聞かせ様としてる。
「オーケー、良いよハリー。」
『...Toast.』
美女を傍らに、ワイングラスをにんまりと緩ませた唇に添えたハリーの顔が見えた。




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