GOD save the


「足が奇麗に伸びるね。ジャンプ力も良い。其れに、とてもセクシーだ。」
十四歳の柔軟な身体は才能を溢れさせ、髪の揺れさえ艶があると面接官は息を漏らした。
「Turn.」
「Ya.」
片足で回転し、其の身体の曲線に生徒は羨望の溜息を零すしか無かった。面接官はヘンリー贔屓だ、リンダの所為だ、と最初は嫌味を云っていたが、三時間踊り続け、全く崩れないヘンリーのスタイルに何も云わなくなった。
今ハロルドは入学試験を受けて居る。此の学校は演劇学校で、ハロルドは其のダンス科の試験を受けて居る最中である。競争倍率は低いのだが、試験は非常に厳しく、入学出来る方が稀であった。倍率が低い、だから受かるだろうと生半可な気持で受けると、ダンサーを志した事すら後悔する羽目になる。散々貶され、暴言を吐かれる。酷い場合は蹴り飛ばされ、強制退場である。
其の面接官達に感心の溜息を吐かせたハロルドの才能は、容易く想像出来様。
「ハロルド君。」
「はい。」
「ダンスは好きか?」
試験の最後に聞かれ、ハロルドは顎から落ちる汗をタオルで拭いた。
「はい。」
他の生徒の様に活気良くハロルドは答えず、静かに返した。好きでも嫌いでも無い物を好きかと聞かれ、はい、と答える様な語気。
「何故、ダンサーに成りたい。」
「リンダの後ろで踊りたいからです。」
はっきりとハロルドは云い、真直ぐ面接官に向いた。
「俺は、踊って居たい訳ではありません。ダンスが好きだからダンサーに成りたい訳でもありません。リンダ・ヴォイドの後ろで踊りたいからダンサーに成りたい、母親と同じ処に居たい、だからダンサーに成りたいのです。」
「其の理由なら、俳優でも、良いじゃないか。ん?」
挑発する面接官の顔。ハロルドは少し困惑し、床を見た。
「俺、頭悪いんです。台詞が覚えられません。目で演技も出来ません。でもダンスなら、身体で演技が出来ます。」
面接官は数回頷き、顔を机の上の書類に向けた。
「其れに…」
「其れに?」
机に手を付き、ハロルドは強い目を向けた。其の目にリンダ・ヴォイドが重なって見える。
「ダンスへの情熱は、此処に居る彼等より劣るかも知れません。けれど、才能だけは、誰よりもあります。」
あたしはダンスもポージングも下手くそ、だけど演技だけは自信があるわ。だって此の才能は。
「神がくれた。」
リンダと同じ目で、同じ事を云った。
劣等感に苛まれた自信家のリトル・ヴォイドと、入学後教師達にハロルドは徒名を付けられた。




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