GOD save the


卒業する一年前、十六の時、進級の代わりにロンドンの演劇学校に編入しないかと教諭に持ち掛けられた。其の演劇学校は推薦以外で入る道は無く、其処から来て欲しいと云われたのだから、ハロルドは高揚し、暫く無言で大きな目を見開いて居た。
「ロンドン…?」
「ビッグ・ベンが見れるぞ。」
羨ましいなぁ羨ましいなぁ、死ぬ前に一度見たいなと、個人的感情を残し、教諭は立ち去った。編入しないか、と持ち掛けた割には詳細を一切伝えず、後を追い掛け様にも教諭は、他の女教諭にセクシュアルハラスメントの最中で忙しそうであった。
呆然と廊下に立って居たハロルドは当然、他の生徒の邪魔である。女生徒に邪魔扱いをされ弱気に謝る姿に、自信家の影は無い。ハロルド、紳士故の下手では無く、単に女が怖いから弱気なのである。
「リトル・ヴォイドー。」
へらへらふらふらとハロルドに声を掛け、肩に腕を置いた。
同じ学年で友人のウィリアム。彼も又才能があり、芝居が上手い演技科の生徒だが、顔が残念に思う。なので舞台に向いている。殺される醜男なら映画でも役があるかも、と自虐を忘れない憎めない男である。
「如何した、ぼーっとして。」
「ウィリー、俺…」
教諭から聞いた話を其の侭伝え、ウィリアムは自分の事の様に喜び、そしてハロルドの才能に羨望した。しかし、当の本人は浮かない顔をして居る。
自分の才能が認められたのは嬉しい、母親も喜んでロンドンに送り出してくれるに違い無い。けれど、ハロルドは不安だった。
「俺、ニューカッスルから出た事無い…」
確かにニューカッスルも大都市であるが、ロンドンとは桁が違う。寮はあるとは云え、一人で卒業し、生活出来るかがハロルドは心配なのである。
「大丈夫だって。」
ウィリアムは笑う。醜男と本人は云うが、笑うと覗く八重歯は魅力的だとハロルドは思う。
「ヘンリーなら、大丈夫。」
何を根拠にそんな事を云うのか判らないが、ハロルドは勇気付けられ、少し笑うと強く頷いた。
「次会う時は、リンダ・ヴォイドの後ろで踊ってる。」
そうハロルドはウィリアムに約束を残し、ロンドンに飛んだ。




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