GOD save the
其の筈だった。
ライトは正直嫌いだ。目は痛く、熱い。其れでも俺は笑う。
「Gentleman!当店の一番を見たいですか?」
「其の為に来たんだ。」
「早く見せろ、帰っちまうぞ。」
ステージ脇で聞く、ボーイと客の声。ハットの鍔を持ち、回した。
「ヘンリー、格好良い。」
「当然でしょう。」
ハットを一回転させ、其の侭掬い上げ頭に乗せた。真暗なステージの真ん中に立ち、客に背を向けた状態で、身体を右に少し倒しハットに手を置いた。
「Gentleman!」
卒業した俺は、ゲイバーでダンサーとして生活して居る。偶にミュージカルのバックダンサーもする。勿論其の時も給料は発生するが、到底生活出来るレヴェルでは無い。安定した職が無いイコール家を借りれない。
だから、此の店に来た。
「今夜も俺のダンスでイっちまいな。」
「ヘンリーっ」
「最高だっ。ベッドでもダンスしないか?」
俺は決して脱がない。シルクハットにタキシードを着て、中世の紳士みたいな格好で杖を小道具に踊る。其れで店の目玉になるのだから、俺の才能は矢張り本物なのだろう。
正直、此の仕事は楽だ。俺は踊れば良いだけで、給料の他にチップを貰う。チップで生活してる様な物で、生活は。
「あっははっはっ。」
毎晩、チップのシャワーを浴びて寝る。ベッドに金を並べ、金のプールで泳ぐ。床に落ち、ベッドの下に消えても気付かない。掃除をして出てくる、丸で宝探しの様で俺は掃除が大好きだ。
此の頃から俺は、ネジが緩み始めていた。気付く筈は無く、取れた時、俺は其の事の重大さに気付いた。
取れたネジは何処かに消え、掃除をしても見付から無かった。新しいネジをするにも合うネジが無い。
緩んだネジを一層緩くし、外したのは、薔薇の花束を持った男だった。
「Nice to meet you.ヘンリー。」
楽屋に現れた男に俺は目を細めた。酷く訛りが強く、イギリス人で無いのは確かであった。ブラウンの奇麗な目と髪を持ち、初めて聞いた言葉に俺は目を揺らした。
「Nice de vous repondre.」
「は?」
「Bonjour、の方が良い?」
「フランス、語…?」
「Oui.」
男の名前はジョルジュ。其の柔らかい声と雰囲気に俺は興味を持ち、其の興味は何時しか恋愛感情に変わった。
毎日俺はステージに上がるが、ジョルジュは毎日来なかった。社会人なのだから当然と云えば当然だが、俺の目は毎日ジョルジュの姿を探していた。そして見付けると一層ダンスに艶を出した。
「何時見てもヘンリーはセクシーだな。」
「特に腰のラインがな。服の上からでもはっきり判る。」
「Excusez-moi.」
「ん?」
「ヘンリーは、ゲイなのか?」
「ゲイバーで働いてるなら、普通はゲイだろう。」
「バイセクシャルじゃなくて?」
「嗚呼、其れは考えた事無いな。」
「在の顔なら女も来るだろうよ。まあ、俺は女嫌いだけど。女とヘンリーなら絶対ヘンリーだ。」
「ヘンリーって、絶対恋人居ないよな。」
「嗚呼、絶対そうだ。」
「…何処からの情報?」
「見た目かな。こう…、聖母みたいな鋼鉄さがある。」
「嗚呼…。Merci beaucoup.」
「You are welcome.…今のフランス人?」
フランス人とイタリア人は好色と云うが、全く其の通りだった。イタリア人は女の人だけれど、流石はフランス人。好みであれば、性別等構い無い様だった。恋人が居ないと噂を聞いたジョルジュは其れから毎日、ステージは見ないが楽屋には来た。
俺は、ステージを見て欲しかったのだが。
ステージで踊る俺が、本当の俺だと思うから。
けれどジョルジュは決してステージを見様としなかった。理由を聞いたら、
「俺が興味あるのは、ダンサーのヘンリーじゃなくて、ハロルド・ベイリーだよ。」
そう云われた。
「ダンサーのヘンリーも俺だよ。ハロルド・ベイリー。」
身体を拭く為に上げていた髪を解き、鏡に映る自分の身体を見た。
「…何か、太ったな。俺…」
「そう?もう少し筋肉あっても良いと思う。」
「そう?あんまり筋肉あると、俺、髪が長いからバランスが…」
云い掛け、鏡に映るジョルジュを見た。
「ジョルジュって、体格良いね。」
「そりゃあ、ねえ。」
其処で初めて、ジョルジュがフランス陸軍の少佐だと知った。
何故彼がイギリスに来たのかは知らない。年齢もはっきりとは知らないが、随分年上なのは判る。抑、ジョルジュと云う名前が本名なのかも疑わしい。
ジョルジュには腐る程疑問はあったが、ロンドンに来て一年以上、必死に張っていた気を緩めたかった。編入した時は好意を裏切らない様に、卒業する時は其の期待に応えるべく一番の成績で、寮では規約を守る良い子で、今は客と自分を楽しませる為に、そして何より、母さんとウィリーにした約束に縛られていた。
疲れていた。
誰かに支えて貰いたかった。
「奇麗な、髪だね。指に滑る。」
電気の消えた薄い楽屋で、俺は初めて、他人の手で射精をした。そしてキスと、愛の言葉を聞いた。
「Je t'aime a croquer.」
「Je t'aime、は判るよ。a croquerは…?」
「食べちゃいたい程、愛してる。」
其れは俺が云いたかったが、顔が熱くなったのは確かだった。
「発音、奇麗だね。」
「そう…?」
「俺が教えれるのは、フランス語とセックスだけど、どっちが良い?」
「両方。」
「欲張りね。」
「其れが、君の知りたがっていた、ハロルド・ベイリーだけど?」
ジョルジュは、フランス語とセックス、其れから愛を教えてくれたが、夢を壊す現実も俺に教えてくれた。
ジョルジュするセックスは最高に気持良い。だって其れには必ず、“女王陛下”が付いていてくれるから。
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