GOD save the


ジョルジュの行く先には何時も、日本人の女の子が居た。イギリス育ちのイギリス国籍なのでイギリス人と云うべきなのだろうが、彼女は日本人と主張した。
彼女は良く判らない雑貨屋を営み、ジョルジュが来ると奥の部屋に通した。俺は其処に入った事は無い。入っても良いのだろうが、雑貨を見る方が面白かった。
ジョルジュは出て来る時何時も手ぶらで、何をしに奥に行くかは初めは判らなかった。彼女は、俺達が店を出る時「御気を付けて、又如何ぞ」と云う。
其の“御気を付けて”は、何に向けられているか、考えるのが楽しい。
気を付けて“御帰り”、気を付けて“警察に”、気を付けて“やり過ぎに”。
此の店こそが裏の世界であった。ありとあらゆる薬が其処には溢れている。“真の女王陛下”と彼女は呼ばれ、此処は小さなキングダム、黒い王国だった。
「ヘンリーは、コカインオンリー?」
薬で喉がやられた彼女の掠れた声に、俺は棚に並ぶ硝子瓶から目を離した。
「女王様は?」
「私はしないねぇ…、コカイン。」
理由を聞くと笑えた。
彼女は鼻が低い。ジョルジュ曰く、申し訳程度にしか付いていない。
彼女は鼻吸引が、低過ぎる為に出来無い。
コカインは、摺り潰した其れを紙に乗せストローで吸うか、親指の手の甲に乗せ鼻を直接付け吸うか、此の二つが鼻からの摂取になる。他にもあるらしいけれど、俺は此れしか知らない。
彼女は其れが、出来ないらしい。
鼻が低い所為か、ストローでは傷が付き、直接では完全に穴が塞がり吸う事が出来無いそうだ。吸った後鼻は真赤になり、目は痛く、エクスタシィ何て皆無、ただでも要らない、と彼女は怒って居た。
日本人は可哀相だな、と彼女の申し訳程度の鼻を見て思った。
俺はきちんと出来る。
「マリファナだけで私は充分…」
元締めが何を云うのだろうかと思ったが、使用した人間の最後或いは最期を知っているからマリファナにしか手を出さないとも考えられた。
彼女は俺にこう云う。
「マリファナや、コカインはぎりぎり大丈夫だとして、ヘロイン。在れだけは絶対にしない。金貰ってもしない。」
ただでもしなかったり金を貰ってもしなかったり、彼女は忙しい。結局マリファナ以外は嫌いみたいである。
俺はマリファナもコカインも大好きだ。
「何で?」
「此の目で…」
彼女はレジに突っ伏し、吐いた。
「恋人の其のサイゴを見たから。」
窶れた身体に腕の穴、目を閉じれば今でも在の顔を思い出す、と彼女は一層声を掠れさせた。
「世界最強兵器だよ、ヘロインは。」
「其れで荒稼ぎしてるの誰よ?」
奥からジョルジュが戻り、目がかなりおかしかった。俺を見ているのだろうが、全く見ていない。
「在の合成、死ぬかと思った。頭がかっかする。」
「私が作った、クイーン・ブレンドよ。」
「成程ね、凄い…」
何を何を混ぜたのかは判らないが、兎に角凄いと云う事だけは判った。
「此れは、受けないと思うよ。」
「そう。なら止めましょう。」
彼女は頷くと、「御気を付けて」矢張りそう云った。




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