夢と思い出


「Good morning, Gentleman! And Ladys!」
毎朝七時、廊下に向かって俺は叫ぶ。するとのそのそと死体は起き、一人ずつドアーの前に立つ。そして俺はBody check…死体確認をする。
「御早う、ブラッド。」
「やあ。」
「御子息にも御挨拶し様か?」
「此れは失礼。暇だから掻いてた。」
「風邪引く前に仕舞っておけよ。」
四十前のブラッドは、もう何年も此処に居るらしいが出る予定は無い。薬は完全に抜けて居るのに、へらへらにやにや笑い居る。薬物前科三犯だ。其れと婦女暴行、及び窃盗。刑務所に入れた方が良い気もするが、何故かブラッドは此処に居る。いや、逸そ死刑にした方が良いかも知れない。
「やあ、ルカ。気分は如何だ?」
「うんとね、兎さんと遊んだよ。」
「そうか、楽しかったか?」
此のルカと云う少年は、自分をアリスだと信じて居る。毎日毎日同じ夢を見、兎を追い掛けて居る。
一桁の子供が薬に侵される、此の英吉利情勢。在のGolden Ageからの衰退は、誰も想像出来無かっただろう。
尤も、此処に居る奴等、俺も含め、其の黄金期は知らないが。
「猫さんも居た。後ね、鼠さん。吃驚したぁ。」
「鼠?」
ルカは笑う。
兎と猫は毎日出て来るが、鼠は初めて聞いた。ルカ曰く、Queenは母親らしい。
「俺だよ。」
眠そうに横に座るヘンリーが頭を擡げた。
「ヘンリー?在れヘンリーだったんだ。」
鼠は確か、そうだ、Dormouse。
ルカは嬉しそうに食堂に向かい、ヘンリーは其の背中が消えたのを確認すると俺に向いた。
「俺も眠れたら良いのにね。」
ゆっくり立ち上がり、壁に指を滑らせ乍らヘンリーは食堂に向かった。

兎の所為で、穴に落ちるのはeasyさ。何だ此処は、crazyだ。皆狂ってやがるんだ。
紅茶はもうNo thanks.兎を捜して居るんだ。
理不尽な女王様に“御気を付けて”。おっと、タルトを食べたのは俺じゃない。ハートの女王様にハートは無いのさ。
死刑死刑、首を跳ねろ。兎は未だか。
楽しい世界は、夢だったんだ。

一晩中、ヘンリーは自作の此の歌を歌って居たと云う。
薬に落ちた、自分をアリスに例えて皮肉に歌った。其れをルカは聞いていた。子守唄として。
ヘンリーに食欲は無いのか、食堂にはcheckも兼ねた朝の決まりで一応は居るが、食べて居る奴の邪魔をしては笑って居る。ヘンリーは特に、此の、配置で決まった目の前に座る太った女が嫌いな様で、皿の中身をテーブルに出しては泣かせて居る。
「止めてよぅ、ヘンリー…」
「ダイエットに貢献してるんだよ、Lady。」
ヘンリーが毎日苛めるものだから、ヘンリーの横に座るブラッドとルカも加勢する。ヘンリーはヘンリーで後は子分共にやらせ、自分の皿の中身をスプーンで遊ぶ。今日のbreakfastはオートミールで、スプーンで中身を皿に落としては「vomitみたいだ」そう云う。
「こんな赤ん坊の糞みたいなの要らない。Fish 'n' Chips寄越せ。」
「昼にな、昼。」
ヘンリーはFish-And-Chipsが大好きらしく、毎日寄越せと喚く。しかし一度も出した事は無い。何故かは俺には判らない。
多分、厨房の奴が、食べないヘンリーを嫌って居るからに思う。良く食べる奴には優しくする。
「Fish 'n' Chips!Fish 'n' Chips!」
「Shut up!」
毎食三十分間こんなfightがあり、後は自由時間である。此処は刑務所では無いので労働は無い。暇な将兵相手に暇な死体達が遊ぶ。
ヘンリーは何時も空を見て居る。一人で。
偶に陸軍の奴と話したりもして居るが、基本的に一人で居る。
唯空を眺めるだけ。
晴れでも曇りでも、ベンチに座り、見て居る。
何かあるのかと、俺も一度試して見たが、五分と持た無かった。全く面白くも無く、同じ話を繰り返すルカと遊ぶ方が楽しかった。
「キースは兎さんね。僕はアリス。」
「大変だぁ、大変だぁ。」
本当に大変だ。何が悲しくてこんな人形遊びをしなければいけないのだろう。




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