愛故に U
二人が此の家に来て一週間、未だ馴染めずに居た。キースは普通に、昔の様に過ごして居た。
「ヴィヴィアン様、テイラー様、リスキー様、キング様。他皆様、御早う御座居ます。御支度の時間に御座居ます。」
クラークは、俺達を起こし、其の後に此の家に居る犬全てに挨拶をする。
ドーベルマンのヴィヴィアンを筆頭に、きちんと順位を守り名前を呼ぶ。此の家で、一番地位の高い犬は俺の愛犬、ヴィヴィアン王妃だ。次にテイラー王女。そしてリスキー王子、キースの愛犬キングと続く。
ヴィヴィアンは流石に最年長と云うだけあるか、クラークが頭を下げると同じ様に頭を下げる。其れを真似、子犬や順位が余り無い犬達が真似をする。
差し詰めクラークは、犬軍の元帥様だ。
犬達を起こし、ヴィヴィアンの毛並みを整えると、二階に上がる。
「マシュー様、御目覚めの時間に御座居ます。」
「クラーク…未だ眠い…」
嫌だ嫌だと布団を掴むマットに、クラークは毎日頷く。そして布団諸共マットを床に落とす。
「朝は起きない嫌嫌癖は、御父様そっくりに。流石は御子息で。マシュー様っ」
「後五分よ…御願いよ…」
流石はベイリー家使用人頭。幼少時代のキースの世話人。扱いが慣れて居る。
「シャギィ、料理は結構。マシュー様の御召し物を。」
「でも…」
「貴方はとろい。焦げのある料理を御三方に出すと?貴方がマシュー様の御世話をして居る間に。」
クラークは云い乍ら手を動かし、シャギィが二階に登り終わる前にテーブルに朝食を並べた。そして、紅茶を煎れ、一口飲んだキースは新聞に目を遣った侭立ち上がる。
「御覧為さい、此れが使用人頭の実力ですよ。」
キースが新聞の面を代える前に軍服を着せ終えた。
俺は毎朝、唖然と、寝癖の付いた頭で其れを眺める。
「次はハロルド様。」
そうして無理矢理髪をセットされる。
「眼鏡位、自分で掛けれる…っ」
「ヘンリー、クラークには何を云っても無駄だ。在の家の作業が染み付いてる。」
主人の手を煩わす事無く、全ての支度を終わらせる。丸で楽屋のリンダ・ヴォイドだ。
俺が馴染め無いのは、二人(家政夫)の存在では無い。此の、御支度用意、が馴染め無いのだ。キースには普通だろうが、俺は、子供扱いされて居る気分になる。昔母さんが、こうして着せてくれた。其の時決まって何時も、じっとして為さい、動かないで、ヒステリックな声で云われる。
「ねえシャギィ。」
「はい?嗚呼、動かないで下さい。」
済みませんね、動いて。尚且、君より背が低くて。タイが、結び難そうだ。
クラークはキースより身長が低い為、下から結べる。けれど俺は、シャギィより身長が低い。もう一つ付け加えると、シャギィはキースより身長が高い。
判るだろう、此の虚しさ。
中腰でタイを締められる此の俺、虚しさ以外、ある筈は無い。
「マシュー様。」
「ほいほい、ほんじゃあ行って来まぁす。」
マットはスクールバスに向かい乍ら、俺達に手を振る。俺とキースは立った侭手を振るが、此の二人は最敬礼でマットを見送る。教師の固まった顔、勿論此の二人は知らないんだろうな。
「よし、じゃあ俺達も行こうか。」
其々の迎えの車が同じ時間に門前に並び、二人は其れを見る。
「行って来まぁす。」
「行って来る。」
「行ってらっしゃいませ、キース様。ハロルド様。」
クラークは最敬礼で俺達を見送るが、シャギィは未だに直立だ。
「行ってらっしゃい、ヘンリー。」
笑って手を振る其の姿は、丸で新妻だ。
「シャギィ。」
「あ…」
頭を下げるクラークに毎朝窘められるが、シャギィは未だ俺に頭を下げる事が出来ず居る。
「行ってらっしゃいませ、マスター。違う、…マーシャル?」
「違うっ、ロードっ」
「Ah... Have a nice day, My lord.」
「………うん。」
行ってらっしゃいヘンリー、の方が、俺は嬉しいんだけれどね。
二人の存在に漸く慣れた半月後、俺達の関係は少し変わる。
〔
*prev|2/8|
next#〕
T-ss