愛故に U
大丈夫、とは親指立て云っては見たもの、足取りは不安定であった。壁を伝って歩き、開いた侭のマットの部屋に倒れた。マットは、ドアーを閉めて眠る事は疎か、電気を消して寝る事さえ出来無い。静かであると夢見が悪いと、蓄音機からは微量にリストが流れて居る。其れに行き成り俺が倒れた音が聞こえたものだからマットは飛び置き、同じ部屋で寝るマットの愛犬リスキーが匂いを嗅ぎに来た。
「Mom...?」
寝惚けるマットは、俺が倒れた音に、母親が自分を殴りに来たと勘違いし、震えた声を出す。
「嗚呼、ハニー、俺だよ…。御免…」
「…だ…、嗚呼、ヘンリーか…」
「そう君の父親で、今は唯の飲んだ暮れ親父…」
「大丈夫…?」
「多分ね…。起こして御免…。楽しい夢を見て…」
噎せ乍らゆっくりと立ち上がり、漸く辿り着いた階段で一回座った。
「クラーアーク。居るー?」
「はい、ハロルド様。此方に。」
リビングから俺を見上げるクラークは顔色の冴えない俺にぎょっとし、慌てて階段を掛け登った。
「何で御座居ましょう。」
階段と云う不安定な場所でもきちんと膝を屈し、俺を見上げる。
「今直ぐ酔いを醒ましたいんだ。」
「無理でしょう…其れは…。御気分は?」
「良い気分。踊り出したい位。」
云ってクラークの手を掴み、左右に振った。
「踊ろう。」
「私、もう寝るのですが。」
ぶらぶらと左右に引っ張られ、クラークは云う。
「そう。なら、ダイニングに連れて行って。」
俺は何も無意味にクラークを呼んだ訳では無い。ダイニングに行く為に飲んだ暮れ親父は此処迄来た。
「レモネードが飲みたい。」
「判りました。ですが寝室に御持ち致します。御戻り下さい。」
クラークなら、屹度そう云ってくれる。読みは当たり、俺は知れず口角を上げ、其れはシャギィにして、そう云った。
「畏まりました。直ぐに御持ち致します。」
「御休みクラーク、明日も笑顔で会おうね。」
「御休み為さいませ。」
一礼し、背筋を真直ぐ、飛ぶ様にそして軽やかにクラークは階段を下りた。
「シャギィ。」
リビングからダイニングに向かう途中のクラーク声に俺は腰を上げた。
ハニー、今夜は楽しめそうだ。
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