薬に匹敵する玩具


雛の羽毛みたく奇麗な睫毛だなと、数センチ先に見えるハロルドの目元に息を吐いた。其れに答える様に薄く開き、揺れ見えるエメラルドの美しさに又息を吐いた。
「ヘンリー、如何してこんなに奇麗なの…」
頬を撫でる爪や指先を取っても奇麗だと、シャギィは指に唇を触れさせた。
ハロルドのキスに吐息漏らすシャギィの耳の後ろに、キースは唇を付けた。
「世界一美しい女の血を引くんだ、ヘンリー程完璧な存在は居ない。」
「君に云われるとはね、キース。」
シャギィの唇から離した唇を其の侭キースに寄せ、シャギィの耳元で一度唇を重ねた。二人の唇の離れる其の音にさえシャギィは身体を震わし、ハロルドの耳元に熱い息を吐いた。
「俺、今倖せ…」
後ろからキースに抱き締められ、前からハロルドの愛撫を受ける。何方に倒れても必ず支えて貰える状態に、シャギィは下唇噛み、笑う。
「もっと倖せにしてあげるよ。」
肩に乗るシャギィの手を掬い、ハロルドは指先にキスをした。其の侭小指から順に舌を絡ませ、第二関節迄人差し指を口の中に納めると吸い上げ乍ら強く噛んだ。指先に密集する痺れと痛みにシャギィは熱く喘ぎ、キースに凭れた。自分の肩でハロルドの愛撫に吐息を吐くシャギィにキースは顔を向け、片眉上げると鼻先を擦り合わせた。
「キスして…、在の時みたいに…」
鼻を擦り、唇を開き求める姿にハロルドを見た。キースの目に一度睨み、好きにすれば良いと目を伏せ指先の愛撫を続けた。好きにしろと云う割には難しい男だなと、溜息に似た息を吐いたキースは、其の侭舌と唇でシャギィの上唇を挟み、軽く吸った。開いた其処からシャギィの舌先が覗き、キースの下唇を左右に撫でた。
「キースも上手何だけど、ヘンリーの在の気持良さは無いよね。在れ、何処から来るんだろう…」
視線をキースの奥に向け、独り言の様にシャギィは呟いた。
「何でだと思う?」
人差し指から口を離し、濡れた其の手を自分の頬に重ねたハロルドは聞いた。
「さあ、何で…?」
「俺は遊びでセックスはしない。一緒に居る其の相手に、自分の持つ愛情全てを捧げる。だから気持良いの。」
「嗚呼、成程…。キースには無い筈だ…」
全くの感情無くハロルド以外とセックスを繰り返すキースに、肉体に快楽はあっても、頭に快楽が来ない筈だとシャギィは薄く笑った。
「キース、見習ったら?」
「そう為った場合、ヘンリー以外に抱かれる事に為る。そんなの、考えただけでも悍ましい。」
「キースに抱かれる人間は腐る程居る、けどキースを抱くのは、俺だけだよ。贅沢だと思わない?」
「そうだね…、キースって凄い贅沢者。」
キースを精神的に独り占めする自分は贅沢だと云ったハロルドだが、シャギィは厭味に、そんなハロルドを独り占めするキースが贅沢だと笑い、キースの唇を噛んだ。
「其の二人を今独り占めしてる御前は、世界一の贅沢者だな。」
唇の痛みに顔を一瞬顰め、そしてサディスティックに、在の独特な笑みをシャギィに向けた。其の顔にシャギィは元より、ハロルド迄も背中に甘い痺れを感じた。
「キースはそんな風に、サディスティックに笑ってるのが一番格好良いね。」
「ヘンリーだってそうさ。在のローザ様笑みは、英吉利全土が震撼する。」
「そして勃起する。」
シャギィの言葉にハロルドは笑い、確かめて見様と、シャギィの下腹部に触れた。
指の愛撫だけでスラックスに不自然な皺を作るシャギィにハロルドは又笑い、キースを見た。
「アドミラル ベイリー。」
「何ですかな?マーシャル ベイリー。」
「御宅の戦法は如何為ってらっしゃる?」
「何か不都合でも?」
「こんな所に武器を構えてらっしゃる。」
「立派な大砲か?」
「生憎、軍艦の大砲はあっても、戦艦の大砲は、見た事が無い。」
「御覧に為るか?マーシャル ベイリー。我が英国海軍の誇る世界最強最大の戦艦の大砲を。」
「良いね、見せて頂こうか、アドミラル ベイリー。」
二人の会話にシャギィは照れ笑い、口元を手で隠し聞いて居た。大砲だ何だ、戦艦等恐れ多いと、スラックスのファスナーの動く音を聞いた。
「恥ずかしいんだけど…」
普段は蜘蛛の足みたく吊り上がるシャギィの眉が垂れに垂れ、垂れた目に添って居た。目元を羞恥で赤く染め、本当に恥ずかしいんだけど、とキースを見た。
「の、割には。」
ハロルドの指先にキースは触れ、先に触れた以上に膨らむ其処を弾いた。
「立派な大砲だな?」
「此れが海軍の誇る戦艦の大砲か、成程、世界最強だね。」
キースの喉奥で笑う声と、ハロルドの愉快な明るい笑い声にシャギィは顔半分隠した。
「何、もう此の、厭らしい親父共…」
「一寸、変態親父はキースだけだよ。」
「は?ヘンリーもだろう。」
「俺は確かに変態だけど…、精々変態な御兄さんじゃないかな…」
「馬鹿、御兄さんは、二十代迄だ。三十過ぎたら立派な中年、親父だ。大体御前、二十四の俺に向かってオッサンって一番最初に云ったよな?」
奇麗だ何だと云われて居るだけに、キースの言葉には傷を受けた。シャギィからもはっきりと親父扱いされ、ハロルドは一人額押さえ現実と向き合って居た。
「嗚呼、結構きついぞ…。俺が親父趣味なだけに…」
「ローザ様に年齢は禁句らしいな。」
「ヘンリー、見た目は普通に二十代だもんね。」
何時の間自分が親父立場に為ったのか、良く良く考えれば、子供が居るのだから親父に決まって居るでは無いかと、未だ未だ“御兄さん”と呼ばれる年代のシャギィを睨み付けた。
「親父の厭らしさってしつこいんだよ、見せてあげる。」
「しつこいから厭らしいんだろう。」
「煩いよ、黙って足押さえててよ。」
「ローザ様に年齢は、本当に禁句らしい、機嫌が悪い。此れは酷いぞ?」
くつくつとシャギィの耳元で笑い、屈折する膝を固定した。ハロルドの機嫌に対しての恐怖か、酷いと云う言葉への期待か、固定した膝は微かに震えて居た。其れと同時に、膨らむ其処はシャツに染みを作って居た。赤い目元も、違う艶を孕み始めた。
「変態はどっちだい、シャギィ。」
シャツに垂れる液をハロルドは指先に乗せ、耳元に唇を付けた侭キースは其の指先を眺めた。
「凄いな…」
十年前の自分もこんなに垂らして居ただろうかと、ハロルドの指先を容易く流れる量の液にキースは感心した。
「此れだけあれば、ローション要らないかも。凄いよ、見てくれよキース。君、こんなに出た事あるかい?」
「いや、無い。」
中指と人差し指、そして親指で糸を引かし、ハロルドは其の指をキースに見せた。何度も指を動かし、暫くすると乾き、丁度汗が乾いた様な感じであった。
「うわ、凄く塩辛い。何だい此れ…」
指先を舐め、水分を与えると又粘着性を帯びた。
「凄い…」
自分達にも出るが、今迄こうもまじまじと観察した事が無い為、二人は指先を眺めた。
「あの、さ…」
二人揃って指先を眺め、自分の垂れ流す液を観察する二人にシャギィは複雑な思いを持った。
「此れはセックス?其れとも、医学生の何か?」
其の言葉に二人は同時にシャギィを見詰め、今度はシャギィの顔の観察を始めた。
「どっちだと思う…?」
寄せられたハロルドの顔を直視出来ず、然し横を向くとキースが待ち構えて居た様に唇を重ねた。何処に向いて良いか判らず、再度羞恥に身体を火照らせシャツを濡らした。
「顔、真赤…。泣きそうな顔してる。」
「シャギィな、痛みには耐久あるが、羞恥には滅法弱い。」
「ふぅん。」
ハロルドの毛先が鎖骨を掠め、肩を竦めたと同時に左右の鼓膜は伝えられる息遣いに震え、液体で遊ぶハロルドの指の動きを直接知った。耳から下に、下腹部から上に、全身を貫き身体の中心、心臓を強く刺激した快感に小さく喘いた。布越しに円を描くハロルドの指に膝は震え、鼓膜はハロルドの声に震えた。
「ちゃんと足押さえてくれよ。」
「押さえてるさ。」
バリトンとテノールが頭の中で合唱を始め、心臓の音は指揮を狂わせ、シャギィは二人から頭一つ分身体を下に落とした。痙攣する膝はキースの腕を小刻みに揺らし、ハロルドに伝わり、其の揺れは結局自分に戻って来た。
「シャギィ、しっかりしろ。」
「無理…」
「仕様が無いね。キース、しっかり身体持っててね。」
耳にキスし、続けて首筋、流れる様に下腹部に向かってキスを続けた。キースの腕が回る腰元は丹念にキスし、ハロルドの両手はしっかりとシャギィの両膝を固定した。
「君のディープストローク程技は無いけど、御気に召して頂けるかな…?」
先端に暖かい息を感じ、根元から一気に上に向かう熱い舌、ぐるりと先を一周すると其の侭半分迄シャギィの其処は熱さに包まれた。張り付いた舌が虫みたく動き、外気に触れる其処にはハロルドの唾液が垂れ、同じ場所でも二つの温度を知った。
「一寸、駄目、俺…。する側であって、余りされた事無い…」
「此処の調教はされなかったのかい…?」
先を吸い上げ聞いたハロルドにシャギィは頷き、快楽に目を揺らした。
キースとは違う味を口一杯に広げ、然しハロルドは違和感を覚えた。
確かに、キースと此処迄すれば身体が反応して良い筈なのだが、心理的に性的興奮は覚えても肉体的反応は見られなかった。
咥え乍ら時折首を傾げるハロルドに気付いたキースは、キスして居たシャギィの頭から唇を離した。
「ヘンリー?」
「肉体的にも親父って事…?」
「如何した。」
「其れが…」
シャギィの腰に回るキースの腕を一本解き、其の侭自分の下腹部に向かわせた。驚いたのはキースだ、触れた其処が、全く柔らかいのだ。
「立ってないぞ…?」
「おかしいな…」
「ヘンリー…?」
解放された快楽に一息吐き、シャギィはハロルドを見上げた。
「御免、シャギィ…」
「何…?」
「立ちそうにない…」
セックスする気だけは十二分にあるからと、シャギィを一先ずイかせ様と、身体を戻そうとした。其の時、キースの手に少し反応したのが判った。
「一寸待って。」
又身体を自分に戻したハロルドにキースは首を傾げ、其の侭唇を重ねられた。左右の手でキースの髪を乱し、舌と唇を離した時、ハロルドは笑った。
「俺、キースにしか立たないんだ…」
「は?いや、シャギィに咥えられた時、御前イっただろう?」
「そう何だよ、だからセックス出来ると思ったんだよ。触って。」
云われるが侭キースはハロルドの下腹部に触れ、少し前触った時には全く反応示して居なかった其処は、反応を見せて居た。
瞬間シャギィはキースの胸に顔を埋め、ハロルドの背中を叩いた。
「堪らない侮辱だ…、嫉妬する…」
「究極のマゾヒニムには、其れさえも快楽みたいだぞ?ヘンリー。」
再度液を垂らしたシャギィの其処にキースは笑い、全くだねと、触れた。
「如何仕様か、折角準備したのにね。」
「本当だよ、もう…」
「気付いたヘンリー、俺がシャギィを抱けば良い。」
俺はヘンリーと違い感情で誰かを抱く事はしないからと、サディスティックな笑みを二人に向けた。ハロルドは一瞬嫌な表情を浮かべたが、自分の惚れた男がどんな風に男を抱くのか、全く逆の状態を見たく為った。
「シャギィ。」
「何…?俺は良いよ…?ヘンリーが嫌じゃないなら。」
「違うよ…」
熱に揺れるシャギィの目に、薬より楽しい玩具が此の世に存在する事をハロルドは知った。
此れは薬より、質が悪い。
そうハロルドは、不敵に笑った。




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